平成27年度の主要な研究活動としては、a)海外でのフィールドワークを実施し、b)研究課題に関連する単著および論文を出版した。
a) 平成27年12月より約3週間にわたるクック諸島ミチアロ島でのフィールドワークを実施し、島民の生活とコミュニティ維持の手法について調査をした。さらにクリスマスや年頭に開催された行事を映像によって記録し、歌や舞踊と共に繰りひろげられる献金や寄付といった経済活動について、参与観察および聞き取り調査を行った。またラロトンガ島のアバルアでは、国立博物館およびキリスト教会を訪れ、伝統的なパフォーマンスがいかに歴史的に位置づけられてきたのか、聞き取りおよび歴史的資料の調査・収集をおこなった。一連のフィールドワークで得られたデータを相互参照し、統合することによって、ポリネシア地域における贈与を中心とした経済実践と、身体性、社会空間形成の密な連関について明らかにするとともに、そのような領域を統合する包括的な理論を構築する基盤を確立することができた。
b) 年度末には単著『贈与とふるまいの人類学』を刊行した。本書はこれまでトンガ王国において行ってきた経済活動および日常実践をめぐる研究の集大成であり、本研究での「ポリネシアにおける贈与の全体性」を緻密な民族誌的記述によって明らかにし、人類学における贈与論および相互行為の理論に寄与することができた。また丹羽典生編『オセアニアの〈紛争〉の比較民族誌』所収の論考「トンガにおける都市性と他者性の現在―暴力の発露としての首都暴動再考」では、トンガの人びとにとっての「他者」存在と認識の形成について、他者との接触や摩擦の生じる多様な事例から論じた。こうした都市性や他者性の現状についての検討によって、人びとの価値観や関わりの変容が明らかとなり、これが本研究が主題としている贈与の実践とも大きく関わっていることがわかった。
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