研究課題/領域番号 |
13J07663
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
斉 紫東 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | キチン / ナノフィブリル / グリーンケミストリー / ゲル |
研究概要 |
1. キチンナノフィブリル(ChNF)化条件の最適化 研究計画に従い部分的脱アセチル化α-キチン(PDACh)の調製条件やナノ分散条件の最適化を行った。脱アセチル化処理におけるアルカリ濃度を抑えることで、アスペクト比の高いChNFの調製を図った。また、pHや対イオンなど様々な分散条件を検討した結果、pH3~3.5がPDAChのナノ分散に最適であり、生物適応性の高いアスコルビン酸がChNFの分散剤として優れていることを見出した。これらの知見は、ChNFの用途拡大につながるものであり、ゲル化や、物質の吸収・分離などにも応用できる。よって、本研究は当初の研究計画を十分に満たしたものであり、その結果について国際学会などの場で発表を行った。 2. ChNFとポリイソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)の複合ハイドロゲル ChNFと熱応答性ポリマーであるPNIPAAmの複合ハイドロゲルを調製し、架橋様式やネットワーク構造を制御することで、ChNFによる補強効果を発現させることを目的とした。 具体的に、光重合によりNIPAAmモノマーと架橋剤をChNF水分散液中に共重合させ、ハイドロゲルを調製した。開始剤の種類、試薬の濃度、紫外線照射条件などを選別・制御した結果、簡便なプロセスから、均一でタフなハイドロゲルの調製に成功した。このゲルは32℃より高い温度条件下で白く、疎水的であり、低い温度では透明で親水的であった。 3. キチン由来の酸・塩基二元機能性触媒の開発 当研究室の先行研究により、ChNF表面のアミノ基は塩基性触媒としてクネーフェナーゲル縮合などの反応を促進できることが判明している。そこで、ChNF表面にカルボキシル基を導入することで、酸触媒機能をも付加し、カスケード反応をワンポットで触媒できるような酸・塩基二元機能性触媒の開発に踏み出した。触媒の比表面積を上げるため、ナノ分散させた上でエアロゲルに成形した。 具体的に、天然キチンに部分的脱アセチル化とTEMPO触媒酸化を順に施し、試料1gあたりカルボキシル基とアミノ基をそれぞれ0,3mmol、0.6mmol導入した。試料の水懸濁液を高圧ホモジナイザーで処理し、透明なナノ分散液を得た。これをt-ブチルアルコールに溶媒置換し凍結乾燥したところ、高比表面積を有するエアロゲルが得られた。触媒機能の評価については新年度中に予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
未利用バイオマスであるキチンに着目しナノキチン材料調製の最適化や高付加価値利用に向けて精力的に研究に取り組んだ。先ず、キチンの脱アセチル化条件やナノ分散条件について、当初の研究計画に従って備に調べ、最適化を図った。その結果を国際学会などの場で報告を行った。次に、研究計画以上の進展として、ChNFとポリマーを複合し、熱応答性に優れた透明でタフなハイドロゲルの調製に成功した。更に、アミノ基を有するキチン材料にカルボキシル基を導入し、酸・塩基二元機能性触媒として利用することを試みた。こうした高機能性ナノキチン材料の開発はキチンの利用拡大へつながるものと信じている。
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今後の研究の推進方策 |
ChNFとPNIPAAmの複合ハイドロゲルについて、ナノフィブリル間、ポリマー間、そしてナノフィブリルとポリマーとの間の架橋様式やネットワーク構造を制御し、ナノフィブリルの補強効果を発現させ、複合ゲルの高機能化を図りたい。また、温度やpHなどの刺激を与え、機械特性や細胞吸着性などの物性に及ぼす影響を調べる。 キチン由来の酸・塩基二元機能性触媒の開発では、より多量な官能基を導入すべく調製・回収方法の再検討を行い、アルドール反応、マイケル反応などにおける触媒性能を評価することを予定している。本研究の触媒試料において、官能基は位置選択的に導入されているため、不斉触媒として機能するかどうかも含めて検討する。 上記の課題について、詳細な結果得られ次第、国内外の学会で発表し、多分野の研究者の意見を取り入れ、論文にまとめて報告を行う予定である。
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