研究概要 |
平成25年度は, 既存の社会調査データを用い, 学校段階ごとの教育機会不平等の大きさを捉えるための分析を主として行った. 本研究の第1段階として, 既存の研究成果である高校・大学間での階層効果逓減現象の世代を通じての趨勢を分析した. 分析には, 最近の高度な統計手法を応用し, 世代間比較が可能になるように展開した. その結果, 階層効果逓減といわれる構造は, 現代の日本では崩壊しており, 高等教育段階での不平等化という現象が確認できた. またアメリカのデータを用い, 格差構造の日米比較も行った. アメリカにおいても高等教育段階に関する不平等化という現象は見られるものの, 依然として高等学校段階において大きな出身階層間の機会格差が存在し, 階層効果逓減の構造は崩れていなかった. 第2に中学校段階の質的分化に対する出身家庭背景の規定力を抽出するため, 既存のデータを用いて基礎的な分析を行った. 私立中学校に進学するための出身家庭背景の影響力は有意に認められ, これまで高校や大学段階で認められた出身家庭背景の規定力より大きいことが分かった. 第3に, 平成24年度までの研究成果を発展させて, 個人の進学意思決定を数理モデルによって表現し, 人工社会による進学シミュレ-ションを行った. 「個人の能力」, 「投資の量」, 「周囲の影響」などをパラメータとして使用し, 現実社会の進学における出身家庭背景の規定力を同等になるように調整した. 調整されたパラメータのもとで, 人工社会における早期選抜(中学受験)の規模を拡大して, 投資の量の影響力(=階層効果)の変化を確認した. 中学受験の規模の拡大により, 一時的に出身階層の効果は増大し, 相当程度の拡大を経た後にやがて平等化することが導かれた. さらに, 規模拡大により, 私立中学校に進学したことによる高等学校段階での質的差異への効果が増大し, よりトラッキングが強くなることが確かめられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の遂行にあたり, これまでの研究で用いられていた統計分析を改良する必要があった. 高度な統計手法が必要なため, それを可能にする統計ソフトウェアを整備し. さらにアメリカのミシガン大学で統計分析のセミナー(ICPSR)に参加し, 統計分析手法に関しての資料収集・情報交換を行った. これによって近年の高度な分析手法を学び, 本研究に応用することが可能となっただけでなく, その応用可能性に関する展望も発見できた
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今後の研究の推進方策 |
これまでの計量的方法で実施された研究は, 比較的新しい制度変化である公立中高一貫校進学者に関する情報はない. 公立中高一貫校への進学, およびその後の進路に関する情報を補うための社会調査を次年度で行うことを目指し, 具体的な調査設計を計画中である. 社会調査は民間の調査会社に対象者のサンプリングのみを委託し, 実査は郵送で行う. また, ミシガン大学では, 人工社会におけるシミュレーションに関する資料も収集した. それらを踏まえて, 制度と個人の進学意思決定を同時に記述・説明できるモデルを発展させる. さらに計量分析の結果とシミュレーションの結果とを結びつける理論を構築し, 制度と不平等に関する一般的な命題を導き出すことを目指す.
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