研究課題/領域番号 |
13J07740
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
岡崎 宏亮 島根大学, 医学部, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ヘテロクロマチン / 熱ショックタンパク質 / 低分子RNA / RNAi |
研究実績の概要 |
前年度までに、エピゲノムを制御する転写装置であるSpt6の付随タンパク質として熱ショックタンパク質であるMas5を同定し、これがもう1つの熱ショックタンパク質であるHsp90と共にエピゲノム制御に関与することを示す情報を得た。本年度は、熱ショックタンパク質がどのようにRNAiを介したヘテロクロマチン構築に貢献しているのか、また熱ショックタンパク質がsiRNA産生を含むRNA制御全般にどのように関与するのかを明らかにすることを目的として、Hsp90の点変異(hsp90-A4)とMas5の遺伝子破壊を用いて以下の解析を行った。 まず、遺伝子サイレンシングへの影響を逆転写産物の定量的PCR(RT-qPCR)で評価した。Hsp90とMas5の機能欠損によるサイレンシング脱抑制はセントロメア周縁部(RNAi依存領域)で観察されたが、テロメア近傍(RNAi非依存領域)では観察されなかった。クロマチン免疫沈降物の定量的PCR(ChIP-qPCR)によって、RNAi経路で働くAgo1(Argonauteの分裂酵母ホモログ) のクロマチン局在はHsp90とMas5に依存することが明らかとなった。更に、ノーザンブロット解析により、正常なsiRNAの生産がHsp90とMas5の変異によって損なわれることが判明した。これら結果は、熱ショックタンパク質がRNAi経路を介したヘテロクロマチン構築に関与することを示唆している。 以上の知見に加えて、Hsp90の失活によってsiRNAとは異なる低分子RNAも細胞内に蓄積することを見いだした。この低分子RNAは様々な転写産物に由来するだけでなく長さが一様ではなかったため、何らかのRNA分解経路の中間産物と考えられる。これらの結果は、熱ショックタンパク質がクロマチンレベルでのエピゲノム制御に加えてRNAの品質管理にも貢献することを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エピゲノムを制御する転写装置の付随因子として同定したMas5に着目し、当初の計画通り、その関連因子であるHsp90と共にクロマチンおよびRNAの制御についての機能解析を進めている。熱ショックタンパク質については、ハエや植物においてArgonauteタンパク質へのsiRNAのローディングにHsp90等が必要であることが報告されている。我々の研究は、分裂酵母においては熱ショックタンパク質がsiRNAの生産に関与するだけでなく、Argonauteのクロマチン局在やヘテロクロマチンの遺伝子サイレンシングにも貢献することでエピゲノムの恒常性に寄与することを示唆している。これに加えて、熱ショックタンパク質がRNA品質管理に貢献する可能性を示す結果も得られている。これらの熱ショックタンパク質は酵母からヒトまで高度に保存されているため、動植物におけるエピゲノム制御の理解のためにも、本研究は大変意義深いものであると言える。本研究の計画段階ではスクリーニングによって熱ショックタンパク質が同定されることを具体的に想定していなかったのだが、実験系や実験材料を適時柔軟に見直しながら研究を進めて新規知見を得ているため、本研究課題は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
熱ショックタンパク質のRNAi経路への関与については、これがスプライシング経路を介したものであるかどうかを検討する。スプライシング経路が破綻すると、遺伝子にイントロンをもつRNAi因子の発現量低下によって二次的にヘテロクロマチンサイレンシングが脱抑制する。熱ショックタンパク質がスプライシング経路の制御を通してサイレンシングに寄与する可能性があるので、熱ショックタンパク質の失活によってRNAi因子のスプライシングが損なわれるかどうかを検討する。熱ショックタンパク質の未同定RNA分解経路への関与については、それがどの分解経路に該当するかを検討する。具体的には、RNA分解に関わるタンパク質群の遺伝子破壊株を作成し、更に熱ショックタンパク質の変異との多重変異を作成してノーザンブロット解析を行う。また、解析に用いているhsp90-A4変異はHsp90のATPaseドメインに一塩基置換のミスセンス変異を持つので、変異がATPase活性に及ぼす影響を調査し、ATPase活性と表現型の関連性を明らかにする。以上の結果を論文にまとめ、報告する。
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