研究概要 |
本研究は, 日本の歴史上唯一, 大学において校長養成を行っていた1949(昭和24)年から1954(昭和29)年までの期間を対象とし, 1.校長養成を成立させていた環境と条件, また, 2.そこでみられた成果と課題について明らかにすることを目的とした。そこで, 本年度は, 連合国軍占領下日本における校長養成に関係する史料を分析したところ, 以下のことが明らかになった。 第一に, 校長職の背景と理念については, 戦前の校長が中央集権的な教育行政の末端として位置づけられてきたことに対する反省から, 戦後の校長職はGHQが主導した教育行政の地方分権化の流れのなかで, 民主的な学校経営の責任者として位置づけられてきた。 第二に, 校長職の形成条件については, 職務権限, 地位, 資格等が諸法令において抽象的に規定されてはいたが, 校長職を成立させた論理や各学校における役割・機能等といった具体的な内容については文部省手引による解説を中心として, 当時の民主的な学校経営論によって次第に浸透していった。 第三に, 校長養成については, 教育職員免許法の施行によって「校長免許状」が創設され, そのための準備段階としての「教育学部教授講習」が行われた。また, 旧帝国大学(大阪大学を除く)教育学部においては校長養成が行われ, CIE主導の教育指導者講習(IFEL)においては現職校長の再教育がそれぞれ行われた。 現在, 校長職をめぐっては人事行政のうえでの問題(民間人校長の登用, 団塊世代の大量退職, 大学院における養成・研修等)が散見されるようになつたが, これらの問題の背景にあると考えられる「校長職をどのようにとらえるか」という本質的な問いについては, これまで十分に考察されてこなかった。本研究の成果として, 戦後の校長職を形成してきた論理が明らかになったことで, 校長養成のあり方について科学的に分析していく場合の手がかりが得られたものと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は, 連合国軍占領下日本における校長養成に関する制度の理念および養成の実態を明らかにすることを目的としていた。現在までの達成状況については, 1. 『明治以降教育制度発達史』(全13巻)および『近代日本教育制度史料』(全35巻), 2. 連合国側の民間情報教育局および米国教育使節団等に関する史料, 3. 日本側の『教育刷新委員会会議録』『教育刷新審議会会議録』, 4. 第92回帝国議会会議録および第2・4・5・6・9・16・19回国会会議録(国立国会図書館所蔵), 5. 「戦後教育資料」(国立教育政策研究所所蔵), 6. 文部省の学校経営に関する指針, 7. 各大学(東北大学, 筑波大学, 東京大学, お茶の水女子大学, 東京学芸大学, 京都大学, 京都教育大学, 広島大学, 九州大学, 福岡教育大学)に所蔵されてある教育指導者講習の研究集録と修了者名簿等の蒐集と分析を行ってきた。本年度は中央における文書を主に扱い, 研究作業も効率よく進捗したため, 当初の研究計画よりも順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策については, これまでの研究において分析してきた文書史料の作成経緯や, 戦後の教育改革の流れのなかでの地方における校長職の定着の過程について明らかにしていくことが求められる。すなわち, 1. 連合国軍の民間情報教育局による「Report of Conference(会議報告書)」(国立国会図書館所蔵), 2. 当時のJoseph C. Trainor教育課課長補佐の「トレーナー文書」(国立教育政策研究所所蔵), 3. 当時の玖村敏雄文部省教職員課長の私有文書(山口県立山口図書館所蔵), 4. 旧帝国大学(北海道大学, 東北大学, 東京大学, 名古屋大学, 京都大学, 九州大学)の所蔵史料, 5. 日本教職員組合の『教育新聞』『日教組運動資料』(日本教育会館図書室所蔵), 6. 各都道府県の教育年史および教員組合史等の地方における文書を蒐集し, 分析する予定である。
|