研究実績の概要 |
平成26年度は、親の認知・感情要因および子どもの行動特性が不適切な養育に及ぼす影響を検討するために実施した2つの研究結果の解析をすすめ、学会発表等で研究成果を発信した。また、不適切な養育に至る親の内的過程について、研究で得られた知見を子育て支援の現場にフィードバックした。研究結果の概要は以下の通りである。 1.一般家庭の親における不適切な養育発生プロセス 本研究で注目した帰属次元のなかで、安定性と対処可能性が親の怒り・嫌悪感情に影響し、これらの感情は子どもに対する不適切な養育に影響を及ぼすことが明らかにされた。また、子どもに対する被害的認知は他の帰属次元とは異なり、不適切な養育に直接関わる可能性が示された。 2.発達障害児、あるいはその疑いのある児を育てる親における不適切な養育発生プロセス パス解析の結果,困難場面における親の対処可能性が低いほど、親の怒り・嫌悪感情が強まることが示された。また、怒り・嫌悪が強いほど、不適切な養育が高まることが示された。さらに、子どもの行動特性が親の感情・不適切な養育に及ぼす影響については、多動・不注意から不適切な養育に正の影響が示され、言語発達の遅れから怒り・嫌悪に負の影響が示された。言葉の遅れがない一方で困難行動が生じる高機能児養育では、育児ストレスや疲労・負担の大きさから、怒りや嫌悪などの不快感情が生じやすいと考えられた。 以上の結果は、先行研究における対人認知や帰属研究に関する示唆(Crick & Dodge, 1994 ; Weiner, 1985, 1986)と一貫しており、従来の認知に関する理論的枠組みを子育て臨床へ応用する可能性を高めた。また、発達障害児養育において示されたプロセスは、単に親のリスク要因のみ、あるいは子の要因のみでもない、親子の相互作用的な視点で不適切な養育発生を理解することの重要性を示唆する意義深い知見といえる。
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