昨年までの検討では、RAMP2遺伝子欠損誘導後に、メラノーマ細胞(B16F10)の皮下移植を行うと、移植した局所での腫瘍の増大が抑制され、更に腫瘍が自壊している様子も観察された。一方、別のメラノーマ細胞(B16BL6)を足底部に移植すると、DI-E-RAMP2-/-では自然肺転移率が上昇するという結果が得られた。詳細な検討を行うと、転移先となる肺では転移が生じる前に、内皮細胞の細胞骨格異常と血管透過性亢進が生じていた。更に、集積した多くの炎症細胞から、S100タンパク質などの腫瘍細胞遊走因子が産生され、がん細胞が生着しやすい環境、「転移前土壌」が形成されていた。 平成27年度は、これらの変化が、AM-RAMP2システムを活性化することで抑制され、腫瘍転移を抑制することができるか検討を進めた。RAMP2を過剰発現させた内皮細胞(RAMP2O/E)を樹立し、タイトジャンクションの裏打ちタンパクであるZO-1の免疫染色を行うと、細胞間接着が非常に強固であった。さらにDsRedを導入したB16F10メラノーマ細胞を用いて、内皮細胞との重層培養法にて腫瘍細胞接着の評価を行うと、RAMP2O/Eでは腫瘍細胞の接着が抑制されていた。RAMP2O/Eでは炎症性接着因子であるICAM-1とVCAM-1の発現も抑制されていた。最後に血管内皮細胞特異的にRAMP2を過剰発現させたトランスジェニックマウス(E-RAMP2 Tg)を樹立した。このマウスにB16BL6細胞を移植し、自然肺転移を観察すると、E-RAMP2 Tgでは、野生型マウスと比較して、腫瘍の転移を抑制し、生存率の改善を認めた。以上の結果からAM-RAMP2システムの活性化は、原発巣摘出後の術後アジュバントセラピーの治療標的となる可能性が示された。AM-RAMP2システムの血管恒常性作用に着目することで、抗転移薬への応用が期待される。
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