本研究の目的は、主権概念および「保護する責任(R2P)」概念をめぐる言説/実践の分析を通して、国際秩序の変動およびその変動に付随して現れつつある「グローバル秩序」の様相を解明することである。平成26年度は、冷戦終結から現在までの言説/実践の展開を歴史的に研究するとともに、R2P概念の発展によって具現化されつつある権力およびグローバル秩序について理論的な分析を行った。主に国連文書等の一次資料やR2P関連の二次資料の研究・調査を行い、さらにR2P概念の理論的発展に関わった専門家・研究者や同概念の実践に携わる関係者にインタビュー調査を行った。 本研究の意義・重要性は、既存の研究で十分に扱われていないR2P概念と権力および秩序の関係に歴史的かつ理論的な考察を加える点にある。現在もR2P概念の主要な目的や実施方法等をめぐって議論が続いているが、既存の研究の多くは、R2Pを人権や法の支配を基礎とする「自由立憲主義的」理念とみなし、R2Pの発展に付随する権力の伸張には十分な考察を加えていない。そのため、「自由立憲主義的」国際秩序構想が実効性を重視する「機能主義的」制度整備や政治実践へ転化されていく過程は、これまでほとんど看過されてきた。この「自由立憲主義的」秩序構想から「機能主義的」秩序構築への転化は、R2P概念をめぐる言説/実践の展開を歴史的に研究することに加え、その展開を理論的に分析することで明らかにし得る。 以上のように、本研究の目的と意義は、R2P概念の展開を一事例として、冷戦終結後の国際/グローバル秩序の変動過程と様相を明らかにすること、さらに、その変動の中で国際/グローバル秩序に組み込まれつつある権力を可視化し、国際立憲主義と権力および秩序の関係を再考することにある。また、以上の考察から、現在の国際立憲主義の課題や機能主義的な秩序構築の問題点についてさらに研究を深めていくための視座も得ることができた。
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