本研究の目的は、アルゼンチンにおける日系人の文芸活動の実態を明らかにし、コミュニティが形成される過程でこれらの文芸活動が果たした機能を文化史的観点から考察することである。本年度は博士論文の内容を再検討し、アルゼンチンの帰国二世アーティスト酒井和也を中心に取り上げることとなった。酒井はアルゼンチンのみならずメキシコ、テキサスでも画家、翻訳家として活躍し、日本文化普及に大きく貢献した人物だが、これまで日本ではほとんど研究されてこなかった。彼の日本文学の翻訳と絵画表現から、日系移民史及びラテンアメリカと日本の交流史を横断する研究を行いたいと考えている。 約二ヶ月間の海外調査では、メキシコ、テキサスにて酒井に関する資料収集及び関係者へのインタビュー調査を行った。また「中南米日系移民および韓国系移民による文学に関する総合的研究」の調査に研究協力者として同行し、米国、ドミニカ共和国、ボリビアの日系及び韓国系のコミュニティを調査した。ラテンアメリカの様々な日系コミュニティを調査することで、グローバルに活躍した酒井の業績を多角的に考察することが可能となった。 酒井和也の経歴をまとめた研究ノートは、『ラテンアメリカ・カリブ研究』に掲載される予定である。海外調査や酒井の出身地佐賀県での調査で得た資料をもとに、彼の業績を画業と翻訳業の両面から整理したものであり、日系移民研究としても、海外における日本研究としても、意義のあるものだと考える。
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