研究概要 |
沿岸性魚類の代表的分類群であるタイ科ヘダイ属魚類は, そのほとんどが大型になる水産重要種であり, これまで以下の5種が有効種とされてきた : R, sarba(ヘダイ), R. globiceps, R. holubi, R. thorpei, 及びR. haffara. ヘダイ以外の4種は, それぞれ局所的に分布しており(R. globiceps, R. holubi, R. thorpeiの3種は南アフリカ, R. haffaraは紅海), これまでヘダイのみインド・西部太平洋に広く分布するとされてきた. しかし, これまでの研究からヘダイは各海域で形態やDNAが微妙に異なるなど数種の同胞種を含む可能性が示唆された. 従って, ヘダイも同属の他の4種と同様に局所的な分布をとる可能性が高い. このように, ヘダイは分類がかなり混乱しており, 分類学的再検討が急務である. そこで本研究では, まずこれまでの調査で採集したヘダイ属魚類(Rhabdosargus globiceps, R. haffara, R. holubi, R. sarba, 及びR. thorpei)の標本の整理と体各部の測定を行なった, 測定項目は棘数, 鱗の枚数や体長など全48箇所を用いた. 特に, インド・西部太平洋に広く分布するヘダイ(R. sarba)は, 各海域ごと(南アフリカ, アラビア海, オーストラリア, 東アジア)に分けて比較検討を行なった. その結果, アラビア海産(パキスタン)のヘダイは他の個体と比べ尾鰭後縁の黒色域が広いことが分かった. 今後, ヘダイのタイプ産地である紅海産のヘダイの標本を採集し, それとこれまでに採集した各海域産のヘダイの標本と詳細に比較検討を行い, ヘダイの分類学的再検討を行う. また, 遺伝学的研究では, 紅海湾奥部のイスラエル産とアラビア海産のR. haffaraはミトコンドリアDNAのCyt-b領域において遺伝的に異なることが明らかとなった. 従来R. haffaraは, 紅海からアラビア海に分布することが知られているが, 前記の結果から両産地の個体は別種である可能性が高い. しかし, 今回の調査で用いた紅海産の個体が少ないため, 今後は紅海産の標本を増やし, 分類学的・遺伝学的研究を進めていく.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究計画は, まず紅海に面するエリトリアに在住する日本人や現地の水産研究者とアポイントメントを取ることができたため今年度の6-7月にエリトリアへ訪問し紅海産のヘダイ属魚類のサンプリングに行く予定である. その後, 前記産地のヘダイ属魚類の標本とこれまでに採集した本属の標本と詳細な比較検討を行い, 分類学的再検討を行う. また, 紅海産のヘダイのDNAサンプルを解析し, ヘダイ属の系統と歴史的分散過程について検討し, 科学論文としてまとめる。
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