本研究の対象種であるタイ科ヘダイ属魚類(全5有効種)は,インド西部太平洋に分布しそのほとんどの種が大型になる水産重要種である.しかし,本属魚類は各海域において同胞種を含む可能性が示唆されており、また遺伝学的・形態学的にも研究が不十分であり,多くの分類学的問題を抱えているグループである.そこで本研究では,本属魚類が分布するほぼすべての海域から,標本とDNAサンプルを採集し,形態学的・遺伝学的双方の観点から分類学的再検討,および系統関係と歴史的分散過程の解明を行った. まず,ヘダイ属魚類のR. haffaraについて,本種は,体高が低く,吻部が丸みを帯びることなどの特徴で同属他種から識別され,これまで紅海およびペルシャ湾に分布することが知られていた.しかし,本研究により両海域産の形態比較および遺伝解析を行った結果,本種は両海域において形態的にも遺伝的にも別種レベルで異なることが明らかとなった. また,ヘダイ属のヘダイは,これまで本属魚類の中で唯一インド・西部太平洋に広く分布するとされてきたが,本研究により各海域(①南アフリカ・紅海,②アラビア海,③インド周辺,④オーストラリア,および⑤東アジア)で形態的に異なるとこが明らかとなった.またミトコンドリアCyt-b全領域(1141bp)を用いて系統解析を行った結果,ヘダイはそれぞれの海域(①-⑤)で分化 し,形態による分類とよく一致した.また,ヘダイ属魚類の分散過程について検討した結果,当初の研究仮説である,古テーチス海が閉じた後,南アフリカを分散の起源とし,インド洋から東アジアへと分散・分化するという仮説を支持する結果となった. 以上の研究成果により,分類学的問題を多く抱えていた水産重要種の本属魚類において,系統を反映した正しい分類体系を提唱することができ,魚類学と水産学の基礎的知見に貢献できた.
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