本研究の主要な目的の一つは、主要島嶼部を含む九州地方全域を対象とした言語地図集を作成することにあった。これは1969年に刊行された九州方言学会による『九州方言の基礎的研究』にまとめられている、延べ170地点にもわたる面接調査の結果を追うものである。本研究では『九州方言の基礎的研究』時の調査よりも多くの調査地点を確保すべく、調査票を調査地点に送付し記入後に返信してもらうという通信調査のかたちを採り、より多くの地点数、また高密度となるよう、目指した。これにより、言語変化のより詳細な地理的側面をみることができる。また、こうした手法を用いて、『九州方言の基礎的研究』や国立国語研究所編『日本言語地図』、同『方言文法全国地図』などとの共通した調査項目を取り入れることにより、世代的な言語変化の様子を捉えることも可能としている。 上に述べたように、本研究の主要な目的の一つには言語地図集の作成があったため、調査結果の報告の一つとして平成26年度は『九州言語地図―簡易版―』として研究成果報告書を刊行した。紙幅の都合上、調査項目の全てを網羅することはできなかったが、『九州方言の基礎的研究』調査の項目と関連の深い項目のうち、語彙・文法項目の37件について言語地図化し、掲載している。各言語地図に関して、それぞれについて全ての回答を凡例に反映させてはいない。これは紙幅の都合もあるが、こうした報告書としての形態には資料地図よりも解釈地図が相応しいものと判断したこと、また本報告書を元に各項目に関する論文を執筆する際の利便性の高さを優先させたためである。 今後はさらに詳細な調査とともに、『九州言語地図』の完全版の完成を目指す。
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