研究課題/領域番号 |
13J08047
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮本 直 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | iPS細胞 / リプログラミング / 細胞分化 / 遺伝子調節ネットワーク / 力学系モデル / エピジェネティック修飾 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度に構築した遺伝子調節ネットワークに基づいたダイナミクスモデルをさらに発展させ、エピジェネティックな修飾をフィードバック調節として取り入れたモデルに関する研究を行った。 このモデルにおいても、前年度の研究で示された遺伝子発現が振動する状態からの分化現象が見られた。しかし、分化するか否かにエピジェネティック調節のタイムスケールが関与しており、特に細胞間相互作用が小さい場合において、分化に適したタイムスケール領域が存在した。さらに、ノイズや一過的な強制発現による脱分化が起こらなくなり、分化状態が安定した。 一方で、分化状態が安定したために、エピジェネティックな調節が障害となってリプログラミングが困難になった。過剰発現させる遺伝子の組の変更、追加因子を加えるなどの操作を行った結果、リプログラミングに必要最低限な操作は2つの多能性遺伝子の過剰発現及び1つの追加因子の導入であった。それらの因子を導入することで、分化状態にあった細胞のエピジェネティックな修飾が緩み(遺伝子が発現しやすくなり)、振動しはじめ、再び分化する挙動を示した。この一連の挙動は分化多能性が回復した、つまりリプログラミングされたと考えられた。 また、本モデルにおいてリプログラミングに必要になった因子の転写調節関係と既知の遺伝子調節関係を照らし合わせると、それらは山中因子に含まれる3つの因子Oct4、Sox2、Mycに合致するものであった。さらに、モデル中の遺伝子の自己促進調節を分解し、他の遺伝子との相互促進調節とした場合、リプログラミングに必要な因子が1つ増え、それらは山中4因子(Oct4、Sox2、Klf4、Myc)に合致した。 細胞の分化およびリプログラミングといった細胞の状態遷移の機構は未だ解明されておらず、臨床応用をはじめとしてその解明が待たれている。本研究はその解明に寄与できる重要な研究と考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既知の遺伝子調節関係と対応のとれた力学系モデルを構築し、分化・リプログラミングシミュレーションを行った。その結果、分化に適したエピジェネティックな修飾のタイムスケールやリプログラミングに必要な導入遺伝子は実験事実と合致した。また、遺伝子発現公共データベースであるGene Expression Omnibusなどからデータを選定し、解析も進んでいる。本研究の目的である細胞の状態遷移に向けてモデル解析と実験データ解析の両面から研究が進んでおり、順調であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後はより大きな遺伝子調節ネットワークに対してエピジェネティックな修飾を導入し、その効果のさらなる解明を目指したいと考えている。また、シミュレーションだけではなく、データドリヴンなアプローチとしてリプログラミング実験から得られたRNA-seqデータの解析も行う予定である。
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