本年度は、前年度に構築したエピジェネティックな修飾をフィードバック調節として取り入れた遺伝子調節ネットワークモデルを用いて、リプログラミングに関する研究を行った。エピジェネティック修飾作用の導入により分化状態が安定したために、本モデルではリプログラミングが困難になっている。過剰発現させる遺伝子の組の変更、追加因子を加えるなどの操作を行った結果、リプログラミングに必要最低限な操作は多能性遺伝子x1とx2の過剰発現及び追加因子ex1の導入であった。それらの因子を導入することで、分化状態にあった細胞のエピジェネティックな修飾が緩み、振動しはじめ、再び分化する挙動を示した。この一連の挙動は分化多能性が回復した、つまりリプログラミングされたと考えられた。 このエピジェネティック修飾モデルにおいて、リプログラミングが成功するかどうかは遺伝子の過剰発現量と過剰発現時間の積によって決まっている。その積が大きくなるとともにリプログラミング効率が高くなり、10の3.1乗付近で最大となり効率は落ちていった。また、本モデルにおけるエピジェネティック修飾のタイムスケールは遺伝子発現のタイムスケールに比べて遅く、10の2乗から3乗程度であった。遺伝子発現を秒から分単位と仮定すると、エピジェネティック修飾は日単位となり、実際に実験で確認されているタイムスケールと合致する。 本モデルにおいて用いた遺伝子調節ネットワークは、多能性に関わる既知の遺伝子調節ネットワーク中にも見られた。さらに、リプログラミングに必要になった因子の転写調節関係と既知の遺伝子調節関係を照らし合わせると、それらは山中因子に含まれる因子(Oct4、Sox2、Klf4、Myc)に合致した。
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