研究課題/領域番号 |
13J08053
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小坂井 理加 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 西洋中世史 / ブルターニュ / 巡礼 / 文化研究 / 宗教社会史 |
研究実績の概要 |
本年度も研究計画に従い研究を遂行した。本研究は、日本国内でアクセス可能な資料がかなり限られていること、対象の性格上建築や芸術作品、図像やモニュメントといった非文字史料も見ていく必要があることなどの理由から現地での調査が不可欠である。そのため、5月8日から20日にかけて、現地において調査と史料収集を行った。レンヌ大学において現地研究者との交流を持つとともに、ブルターニュの主要な巡礼地であるカンペール、サン・ポル・ド・レオン、トレギエ、サン・ブリュー、サン・マロ、ドル、ヴァンヌを訪れ、国内で入手困難な史料文献の収集・閲覧、各教会や礼拝堂における非文字史料の見学、各教区において行われる祝祭パルドンやトロメニといった現地習俗の調査を行った。 この調査に関し、得られた成果についてと同時に文献研究で得た知見をいかに調査において確認するかといった方法論について地域院生研究フォーラムにおいて報告した。また、本調査においては特にトレギエ及びその郊外にあるミニィ・トレギエにおいて、中世のブルターニュにおいて唯一ローマ教皇庁によって認められ、領域を超えて崇敬を集めた聖イヴ信仰についての貴重な史料(教会の会計文書、聖人認定調査の記録など)に直接触れることができたのであるが、それについての分析、考察の成果をまとめて11月に熊本大学における九州西洋史学会において報告した。 また、『比較文学・文化論集』において論文を提出した内容に関してさらなる調査を行うため、2月26日から3月6日にかけて史料収集とセミネールへの参加を目的として南フランスへ赴いた。25年度に西洋中世学会のポスター発表において報告したシャルル・ド・ブロワの聖人認定調査に関する写本を直接調査するとともに、トゥールーズにおいて行われたサンチャゴ・デ・コンポステラ巡礼に関するセミネールに参加した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度においては、比較検討と一般的理論の構築を目的としてヨーロッパ各地域での巡礼に関する研究文献を検討すると共に、それぞれに対し政治的社会的背景を踏まえた考察を行うことを中心としてきた。そうした前年度での研究成果をもとにして、本年度では専門である中世ブルターニュについての研究を中心に進め、ブルターニュの叙述史料を収集し、できるだけ多くの史料を渉猟することで中世西洋のブルターニュの人々の心性への接近を試みることを目指した。その点を踏まえたうえで、本年度の研究は以下のように進展した。 ①ラテン語文献の参照とそれを踏まえたフィールド調査によって、中世ブルターニュ地域における巡礼とその社会的・政治的展開の実態を明らかにする糸口を得た。 特にラテン語やブルトン語、古フランス語など現地語による文字史料及び研究文献の精査を行い、フィールド調査にあたっては特に文献資料や刊行物などで把握することが難しい信仰の表象の展開に注目し、各地域でのブルターニュ社会における巡礼慣行の展開を、具体的な事例のレベルで明らかにすることを進めることができた。 ②量的データの分析によって、ブルターニュ公国の政治活動と領域内における各都市や領主の政治活動がいかに連動していたかを文化的側面から考察しなおすことができた 教会や礼拝堂の名称や信仰の対象となった泉やモニュメントとそれらが捧げられた聖人の分布、ブルターニュ公や領主による寄進の状況、聖人伝の作成状況など、都市や教区単位に限られない、分析が可能なデータを集め分析することによって、文献やフィールド調査によって得られた情報では網羅しきれない地域や分野を含む俯瞰的な視野を得ることが可能になった。その結果、ブルターニュの政治活動の拡散と相互作用についてより明確な検討を行っていくことが期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度には、この時点までの研究を踏まえて、ブルターニュ公国という領域国家内部に拡散していた聖人崇敬と巡礼に関する既存理論の検討や新たな理論の構築に取り組む。また、明らかになった成果を博士論文として提出するための作業を重点的に行う、 平成25年度においては対象となる研究地域であるブルターニュ以外のヨーロッパ世界にも目を向け、比較の材料とするとともに巡礼やブルターニュについての既存理論の検討を行い、平成26年度においてはブルターニュに関して現地調査や現地研究者との交流を行い、史料の収集とそれについての研究を中心とした。 今後は、以上の研究から明らかになった成果を、既存理論の批判と発展という観点から検討する。教区や都市といった非常に限られた範囲において成立した信仰がいかに公国という領域内部、あるいは他地域にまで波及し巡礼を形成するのかという点は、宗教活動の拡散diffusionに関する研究として新たな理論の構築に資する。本研究はそうした宗教的な動きのダイナミズムを示すことで、中世ブルターニュあるいは中世ヨーロッパ世界における心性の枠組みを提言することを可能にするものであると考える。 こうした研究の推進を行うため、前半期において再度のブルターニュでの現地調査を行い、フランス国内の文書館、研究機関においてブルターニュの聖人崇敬に関する一次史料を参照し、博士論文執筆への資料収集の最終段階とする。これまで論文や口頭発表の形で報告してきた成果をもとに博士論文を執筆し提出することを目指す。
|