本研究では,「人間プレイヤのように自然に振る舞う」ゲームAIという視点から,ゲームキャラクタの「人間らしい」振る舞いや戦略を自動的に獲得する方法論を構築し,その有用性を評価することが主目的である.本年度では,機械学習で人間らしいAIをどのように獲得すべきか,人間らしさを表出するゲームキャラクタが満たすべき構成要素とは何か,獲得された振る舞いの人間らしさの評定は可能か,について検討を実施した. 人間らしいAIの実現には,人間らしい特徴を際立たせる作り込みや,強くない人間プレイヤのプレイログから学習する手法もあるが,本研究のアプローチとしては,人間の制約や認知過程に基づいた「人間プレイヤモデル」を構築する手法を採用した.これはゲームジャンルやゲームタイトルに依存せず,ゲーム情報学以外の領域にも応用が可能なアプローチであると考えられる.人間プレイヤモデルとしては,昨年度の研究成果である『生物学的制約』(視覚の空間認識の誤差,視覚と運動の協応動作における遅れ,継続的な運動による疲れ)のみでは不十分であり,『スキル・知識の不足』や『人為的なミス』も考慮したモデルを構築している. また,ゲームAIの人間らしさの評定について,「人間らしさ」は評定者の主観的認知に基づき評定されるものであるため,評定者の経験・知識・経歴・嗜好等によって大きく左右されるという問題がある.評定実験における実験実施者のインストラクション(教示)による影響も大きい.本研究では,実際に,評定実験においてゲームの攻略に対するメタな知識や身体的スキルを教示した評定者群と,何も教示しない評定者群とを比較し,人間らしさの評定結果に有意な差が認められることが確認できている.この結果は,評定実験の信頼性や再現性の確保のためには,より精緻に評定者を統制する必要があることを示唆しており,統制基準策定の足掛かりになると考えられる.
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