本研究は、アルコールによる心筋障害の分子機構を明らかにすることを目的としている。エタノールを曝露したマウス心房筋由来細胞株HL-1細胞において、アポトーシスおよびギャップ結合構成タンパク質Cx43のリソソームでの分解が誘導されることを明らかにした。ギャップ結合阻害剤によってエタノール誘発性のアポトーシスが抑制されたことから、エタノールによるCx43分解とそれに伴うギャップ結合を介した細胞間情報伝達の抑制は、アポトーシスの誘導を抑え心筋の恒常性維持に寄与していると考えられた。 心筋細胞はギャップ結合、デスモソーム、アドヘレンスジャンクションの3つの細胞間接着装置により連結している。エタノールにより、Cx43と同様にデスモグレイン(デスモソーム構成タンパク質)およびN-カドヘリン(アドヘレンスジャンクション構成タンパク質)の発現が低下し、細胞間接着が障害されていることを明らかにした。また、デスモソームおよびアドヘレンスジャンクションには中間径フィラメント・アクチンフィラメントが結合しており、エタノールを曝露した心筋細胞では、これらの細胞骨格も変性している様子が観察された。細胞間接着などの物理環境を感知して細胞増殖を制御するHippo経路の関与について検討した結果、エタノール曝露によってHippo経路が抑制されることを明らかにした。アルコールによる心筋障害に関わる新規のシグナル経路として、細胞内外の物理的刺激に応答し、細胞増殖や細胞死を制御するHippo経路が関与することを見出した。
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