研究課題/領域番号 |
13J08110
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
萩原 加奈子 近畿大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | FTY720 / カルシニューリン / 活性酸素種 / マップキナーゼ / シグナル伝達経路 / ストレス応答 |
研究概要 |
本研究は、ゲノムワイドな手法と遺伝薬理学のアプローチを駆使し、免疫抑制薬FTY720の標的因子の網羅的同定と機能解析を行うことで、1) FTY720のカルシウム/カルシニューリン(CN)シグナル伝達経路の活性化機構の解明、2) FTY720添加と酸化ストレス添加時の標的因子の共通性質より導かれるFTY720の作用機構とその機能解析、3) FTY720がタンパク質代謝に与える影響とその意義、そして、4) FTY720が細胞に与える影響とその意義を明らかにすることで、FTY720を介するシグナルネットワークの解明を目指すものである。本年度は以下のことを明らかにした。まず、CNの下流に位置する転写因子Prz1の転写活性を、in vivoでリアルタイムにモニタリングできるシステムを用いて測定した。その結果、FTY720がカルシウムチャネルの開口を制御することで細胞内カルシウム濃度を上昇させるが、その開口にはマップキナーゼ(MAPK)経路の活性化が一部関与していることを明らかにした。そして、カルシウム/CNシグナル伝達経路が適切に制御されなければ、FTY720に感受性を示すことも明らかにした。 また、FTY720を添加すると、活性酸素種の発生上昇とそれに続く細胞増殖抑制、さらにストレス応答MAPKの活性化が起こることを明らかとした。そして、ストレス応答MAPK経路の構成因子のノックアウト細胞がFTY720に超感受性を示すこと、FTY720によるROS産生誘導が正常細胞と比較して顕著に上昇することを明らかにした。したがって、ストレス応答MAPK経路は、FTY720が引き起こす活性酸素種の産生と、細胞増殖抑制に関与していることが考えられる。さらに、FTY720添加により誘導される、カルシウム濃度上昇と活性酸素種の産生という2つの現象の間にクロストークがあることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画通り順調に進行している。研究実施計画1)FTY720のカルシウム/カルシニューリンシグナル伝達経路の活性化機構の解明について、マップキナーゼ経路との関与を証明した。この成果から申請者は、学術雑誌PLoSONEに筆頭著者として掲載された。研究実施計画2)に関してFTY720添加による酸化ストレス誘導とストレス応答マップキナーゼの活性化を証明し、この成果は学術雑誌Genes to Cellsに筆頭著者として掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
研究実施計画3)のFTY720がタンパク質代謝に与える影響とその意義に関して、FTY720添加時のタンパク質分解酵素活性の測定や、ユビキチンタンパク質量の変動を見ることで検討中である。また、研究実施計画4)に関して、FTY720が細胞に与える影響とその意義を明らかにするため、「FTY720に感受性を与える遺伝子群」と「DNAマイクロアレイの結果、同定した標的因子のうち、FTY720により活性化されるカルシウム/カルシニューリンシグナルやストレス応答マップキナーゼシグナルという二つのシグナル伝達経路により発現が誘導される遺伝子群」の網羅的な探索を順調に進行中である。今年度はこの探索の完了とそれらの遺伝子群の機能的分類・解析を行う。
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