研究課題/領域番号 |
13J08122
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井上 一紀 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | スアレス / 近世スコラ学 / 超越範疇 / 存在の一義性 / スピノザ |
研究概要 |
(1)スアレスにおける超越範疇(transcendentia)の位置づけの解明 : スアレスは伝統的な存在論の枠組みを引き継ぎつつ、超越範疇に異なる規定を与えている。多くの性質を以前のスコラ学者と共有しつつ、超越範疇は存在を認識するための非十全な仕方であるとも主張する。一や真、善といった存在と可換的な超越範疇は、いずれも一定の観点から存在の内実を展開するとはいえその全体を把握させるわけではない。超越範疇に、れが不可避的に帯びる非十全性という性格を付与し明示化する点において、スアレスの超越範疇論は際立っている。この成果は、スアレス以後のスコラ学における超越範疇論の中心化を形而上学の成立可能性という観点から考察する道を切り開く。 (2)スアレスにおける存在の一義性/アナロギアテーゼの解明 : しばしば曖昧に用いられがちな両テーゼの、スアレスにおける精確な位置づけを整理した上で、その議論構成の特徴を明らかにした。存在が神と被造物に一義的に言われるのか、アナロギア的に言われるのかがその主要な問いとなるが、スアレスは自らの立場である内的帰属のアナロギアを主張する際、他の見解を内在的に批判しているというよりもむしろ自らの存在論の前提(形而上学の対象としての存在は神と被造物に共通している)のもとでそれらを棄却している。ここから、一義性かアナロギアかという問いは、実質的には形而上学の対象設定のもとで既に解の出ている問題へと変容していることが結論された。以上の考察によって、スアレス以後ほとんどのスコラ学者が存在の一義性とアナロギアの問題を表面的には取り扱わない理由を与えることができ、また彼らの表面的な議論の背後に一義性とアナロギアの隠された抗争を見て取ることのできる視座を得るに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、スピノザ哲学を再展開するための補助線を引く作業としてスアレス形而上学を中心に近世スコラ学の分析を行った。近世スコラ学が有している超越範疇の独自性、ならびに存在の一義性/アナロギアテーゼの変容等に関して、当初予測していたよりもスピノザ形而上学にとって有益な、またその後のスコラ・講壇哲学の概念布置を把握する上で必須となる論点を解明することができた。したがって当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
スアレスを中心とした近世スコラ学に関する分析を継続的に(とりわけドイツ・オランダの近世スコラ学へとその中心を移しつつ)行い、それと並行して今年度の研究成果を踏まえたスピノザ形而上学の研究を行う。とりわけ超越範疇の代わりに彼が導入する共通概念の特異性、近世スコラ学が行った存在の一義性とアナロギアの変容、ならびにそれを巡る概念配置を経てなされるスピノザの存在論の独自性という二点から、彼の哲学を再展開していく。その際第一の点に関しては、超越範疇の非十全性という着想がヴォルフやバウムガルテンを通じてカントへとどのような変形を被った上で流れ込んでいったのかを明らかにすることで、スピノザの提起した共通概念をより広い哲学史の中に置き直して提示したい。
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