研究課題/領域番号 |
13J08152
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
脇 司 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
キーワード | Perkinsusolseni / アサリ / 病害性 |
研究概要 |
1. 生活史初期のアサリに対して示すPerkinsus属原虫の病署性の評価 【実験】未感染初期稚貝(殻長0.5~1㎜程度)をR. olseniで攻撃して陰性対照個体と飼育したところ、攻撃区の生残率は2割程度にまで減少したのに対し、対照区では7割以上と高かった。この結果から、本虫はアサリ初期稚貝にも感染して病害性を示すことが実験的に示された。【野外調査】本属原虫の感染域である神奈川県海の公園と愛知県で、月l回の採集調査を行い、生活史初期の個体の寄生状況を調べた。その結果、殻長2㎜以下の個体からは寄生が認められなかった。人為的にはそれらの個体も感染することを鑑みると、野外では、濾水能力に乏しい初期稚貝が虫体を取り込めなかったか、感染個体が速やかに死亡して生き残らないためと考えられた。(なお、当初の計画では有明海の調査継続予定であったが、愛知県ではアサリの資源量が多く寄生強度が低いことが予備調査で分かっていた。このため、愛知県で調査を行い、代表者を含めた研究チームが2013年1月まで実施してきた有明海と結果を比較し、3水域間での寄生状況・環境状況の比較を可能にした。) 2. 本属原虫への対策の観点からみたアサリ増殖場の有すべき条件の特定 【野外調査】愛知県ならびに海の公園で定期調査を行い、寄生強度と環境データを有明海沿岸(2009年6月~2013年1月)における結果と比較した。その結果、塩濃度が低く推移した愛知県における寄生レベルが特に低く、低塩濃度によって寄生レベルが低く抑えられていることが示唆された。 【実験】アサリに寄生した状態のP. olseniの増殖が、低塩分ならびに低水温で抑制されるか調べた。(1) 低塩分の影響 未感染のアサリ種苗をP. olseniで攻撃し、陰性対照個体と共に塩濃度15、18、23、30でそれぞれ飼育した。その結果、いずれの塩濃度でも寄生強度は同様に上昇し、アサリの体内では海水の塩濃度がP. olseniの増殖に及ぼす影響が小さいことが示された。(2) 低水温の影響 攻撃したアサリと陰性対照のアサリを水温13、18、23℃の水槽で飼育した。その結果、18℃と23℃では体内でP. olseniが増殖したが、13℃では顕著な増殖は認められず、13℃では体内での増殖が抑制されることが示された。以上の実験から、アサリの体内では、13℃の低水温では殆ど増殖しないことが示された。以上の結果から、本虫の増殖の活性の低い冬季にアサリ種苗を放流することで、しばらくの間アサリ体内の寄生強度が低く抑えられる可能性がある。一方、寄生レベルへの塩濃度の影響は少なく、低塩濃度水域での寄生レベルを決定する要因を調べる必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
年次計画に記述した1年目の内容については、概ね以下の様に実施できた。 年次計画予定した、生活史初期における寄生状況の調査と感染実験については、行うことができた。 複数の水域で定期調査を行い、寄生状況と環境条件の比較を行うことができた。 予定していた、本属原虫の活性の低下する要因の解明についても、野外調査と実験を行うことができた。その結果、塩分は本属原虫の低寄生レベルを決定する要因ではないことが分かった。それに加えて、寄生状況は13℃程度の低水温によって強く抑制されることも明らかにされた。
|
今後の研究の推進方策 |
野外調査では、低塩濃度が虫体の増殖を抑えることが示唆されたが、攻撃試験では低塩濃度は増殖に影響しなかった。このことから、低塩濃度によっては本属原虫の防除は困難と思われる。一方で、愛知県では数年に1回の頻度でアサリが貧酸素水塊によって大量死しており、宿主が死滅することで虫体も消滅し、新たに虫体が水域に侵入するまでの間、寄生レベルが低く抑えられている可能性がある。したがって、アサリの種苗の生産場や増殖場においては、漁獲時にアサリをほぼ全て取り上げることで、その場所の寄生強度を低く保つことができる可能性がある。 このことを実証するためにも、まず、年次計画2年目に記した水平感染実験を行う必要がある。また、年次計画に記した増殖モデルに加えて、屋外における水平感染についても実験的に調べる必要があると考えられる。
|