本研究では、アサリ資源量を左右する着底直後の生活史初期個体への感染状況を野外調査で調べた。愛知県A地点で採集調査を行ったところ、殻長約2 mm以上の個体からは寄生が認められたが、それ以下の体サイズの個体から寄生が認められず、殻長2 mm 以下の個体が感染後速やかに死亡して生き残らないことが示唆された。A地点でアサリの寄生状況と塩濃度・温度を調べて先行調査の有明海沿岸と比較したところ、愛知県における寄生レベルの方が有明海より低水準にあることが昨年に続いて確かめられた。塩濃度については、愛知県で低く推移することが多かった。以上のことから、愛知県では低塩分により寄生レベルが低く抑えられていることが示唆された。 愛知県で複数年野外調査したところ、いずれの年でも冬に個体群が消滅しており、宿主であるアサリ個体群の消滅に伴い本虫も水域から消失し、その後新たに着底したアサリへの生が少ないことが示唆された。従って、アサリ増殖場を設ける際には、感染源となる天然アサリをできるだけ取り上げて、水域の虫体を取り除くことが効果的と示唆された。そこで、次のような野外実験を試みた。アサリの寄生レベルが高いことで知られる調査地点Bで、感染源となる感染アサリを可能な限り取り除いた「アサリ除去区 (10 m×10 m)」を作った。アサリ除去区と対照区に未感染アサリを放流し、その後の感染状況を3か月間追跡調査した。しかしながら、アサリ除去区と対照区に放流した未感染アサリの間に感染状況に差が見られなかった。以上のことから、感染アサリの除去範囲が狭く実験区外から遊走子が流れてきたと考えられた。
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