研究課題/領域番号 |
13J08190
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
寺部 宏基 東京理科大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 原子・分子 / 表面・界面 / 金属 / 放射線 / ビーム物理 |
研究概要 |
まず、タングステン表面にナトリウムを蒸着し、その表面から放出するポジトロニウムの運動エネルギー分布を清浄な表面における運動エネルギー分布と比較を行った。この測定には、アルカリ金属の蒸着により増加したポジトロニウムの生成過程を調べる目的がある。今回の実験により、ナトリウムをタングステン表面に蒸着すると、主に高エネルギー成分のポジトロニウムが増加していることが明らかとなった。この結果は、試料に入射した陽電子が金属内部から表面に戻ってきた際に直接ポジトロニウムを形成する過程が、ナトリウムの蒸着により増加したことを表している。一方、一旦表面ポテンシャルに束縛された陽電子がポジトロニウムを形成する過程については、今回観測することができなかった。また、ナトリウムの蒸着量を仕事関数の低下量が極大とされる1原子層未満とその2倍以上となる2原子層で比較を行ったが、実験結果に有意な差は見られなかった。 次に、平成26年度に行う予定であった、ナトリウムの蒸着によるポジトロニウムの増加量を精密に測定することも行った。測定の結果、ナトリウム蒸着後は清浄なタングステン表面と比較して、約3倍に増加していることが明らかになった。これは、表面に戻った陽電子のほとんどがポジトロニウムとして真空中に放出していることに相当する。この性質は、加熱を許容できない環境におけるポジトロニウム放出源として、ナトリウムを蒸着したタングステン表面が利用できることを表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多結晶タングステンにおいて、その表面に蒸着するアルカリ金属や温度を変化させた際の、表面試料から放出するポジトロニウムのエネルギーや放出量の依存性を測定した。年度末には、後任への技術教育も完了し、今後は他の金属基板についても同様の研究が行われる予定である。現在は、この結果をまとめ、論文を執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
蒸着物質にセシウムを用いた場合、ナトリウムを蒸着した場合と比較して、ポジトロニウムの放出量は変わらないが、そのエネルギー分布に大きな違いが現れた。この変化について詳細な調査を行うことで、金属表面でのポジトロニウム形成過程について新たな知見が得られる可能性がある。そこで、今後の研究推進方策としては、蒸着物質およびに基板となる金属を変化させ、表面から放出するポジトロニウムのエネルギーを系統的な測定を行うことが考えられる。この研究は、研究代表者が所属する研究機関の大学院生へ引き継がれ、次年度より行われる予定である。
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