研究課題/領域番号 |
13J08197
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
鈴木 弥香子 慶應義塾大学, 社会学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | コスモポリタニズム / グローバリゼーション / 新自由主義 / グローバリズム / 方法論的ナショナリズム |
研究実績の概要 |
本研究の主目的は、グローバリゼーションが高度に進展した現代社会において、グローバル資本主義はいかなる問題性や弊害を抱えているのかを明らかにしながら、その弊害に対処しうる新たな構想としてコスモポリタニズムは如何なる意義、可能性を有しているかについて検討することにある。 この目的を達成するため、第2年度にあたる当該年度もいくつかの研究を進めてきた。主要な業績としてまず挙げられるのは、査読付きの投稿論文「「経済的グローバリゼーションの進展と国家の変容――なぜ国家は新自由主義政策へと駆り立てられるのか」」(『慶應義塾大学大学院社会学研究科紀要--人間と社会の探求』第79号)である。この論文では、そもそもなぜコスモポリタニズムのような国家を超えた政治的なプロジェクトが求められているのか、という当研究課題全体の前提とも言える部分を明らかにした。経済的なグローバリゼーションが進展する中で、国家はその役割の変容を余儀なくされており、国家を閉鎖的、自己完結的、自律的なものとして静態的に分析することは困難になっていることを示し、「方法論的コスモポリタニズム」の視座から、国家による政治とグローバル資本の関係を問い直した。 次に挙げられるのは、国際学会での研究報告、“The State of Neoliberalism Criticisms in Japan: Why the Discussion on Cosmopolitanism does not gain Steam in Japan”(XVIII World Congress of the international Sociological Association)である。この報告では、なぜ日本では他国と比較してコスモポリタニズム研究があまり活発でないのかについて、日本における新自由主義批判の持つ文脈を分析することを通して明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は概ね順調に研究を進めることができたと言える。本年度はただ研究を進めるだけでなく、自己の研究を批判的に再検討する契機に恵まれ、当研究の意義を改めて熟慮することができた。これは長期的に見れば欠くことのできない過程であり、このプロセスを通して研究をさらに発展させてゆくために必要な要素を捉え直すことができた。 また、業績に直結しない中でも多くの成果を得てきたことは評価できると言える。たとえば、自身が研究報告を行ったISA以外にも、国外の研究者が多く集まるカンファレンスなどで積極的に研究に関する意見交換を行い、国内外の研究者とのネットワークを構築し、自身の研究に関して多くの示唆を得てきた。 今年度積み重ねてきた研究の批判的再検討、そして国外の研究ネットワークから得た示唆を踏まえた上で、来年度はより発展的な研究の展開が期待できるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
申請段階では理論研究、事例研究、政策研究の三本柱で研究を進める予定としていたが、研究を進める中で、当初の想定以上に理論的検討を様々な観点から深める必要があることが分かった。2015年度は本研究課題の最終年度にあたるが、政策研究や事例研究よりも理論研究を優先させて、更に研究を深化させていきたいと考えている。多様な視点から慎重に理論的検討を重ねることによって、より説得力を持った緻密な議論として発展させていきたい。 理論研究を進める中でも、今年度重視していきたいのが、多くの日本人学者がコスモポリタニズムを敬遠する理由となっている、コスモポリタニズムを巡るいくつかの「誤解」を解いてゆくことである。たとえば、その誤解の一つとして挙げられるのが、「コスモポリタニズムはローカルなものへの愛着や帰属を否定している」というものである。このテーマについては、現時点ですでにいくつかの学会で報告を行うことが確定している。一つは International Federation of Social Science Organizationsの 22nd IFSSO General Assembly and International Conferencen、もう一つはカルチュラル・スタディーズ学会のカルチュラル・タイフーンである。こうしたこれまで参加することがなかった分野の学会で研究報告を行うことで、新たな視点を獲得し、自らの研究をより発展させていきたいと考えている。 さらに今年度は、慶應義塾大学と国外の大学との間のダブルディグリー制度を利用し、英語で博士論文を提出することも視野に入れながら、博士論文の執筆を進めていく予定である。
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