研究課題/領域番号 |
13J08199
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中間 智弘 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ブラックホール / 初期宇宙 / 原始ブラックホール / 密度ゆらぎ / 一般相対性理論 / 原始ゆらぎ |
研究実績の概要 |
大質量星がその一生を終えるとき、自らの重力によってつぶれてブラックホールが形成される。一方で、星などの構造ができるはるか前の初期宇宙でもブラックホールが形成し得ることが知られており、このようなブラックホールを原始ブラックホールと呼ぶ(Primordial Black Hole, 以下PBH)。PBHは発見されておらず、様々な観測実験からその存在量に上限が得られている。PBHはその存在自体が興味深いが、それだけでなく、PBHを研究することで初期宇宙に対する示唆が得られる。私は特別研究員の3年の採用期間の間に、PBH形成過程などを詳しく調べることで初期宇宙を調べる計画であった。これに関連して、PBHの二重形成という現象を初めて数値計算により示した。この現象は、短波長の大振幅な揺らぎが長波長の大振幅な揺らぎに重なって存在しているときに、まず短波長の揺らぎが崩壊して小質量のPBHを形成し、その後大振幅な揺らぎも崩壊し、最初にできた小質量のPBHを飲み込みつつ大質量のPBHが形成するという、非常に興味深い現象である。また、PBHが超巨大ブラックホールを説明し得るかという問題に関しても重要な発見をした。初期揺らぎの統計性がガウシアンだと仮定し、かつPBHが超巨大ブラックホールの起源だとすると、小質量のダークマターミニハローも同時に大量に形成することを指摘した。仮にダークマターが標準的なWIMPであるとすると、それらのミニハローは大量のガンマ線を放射しているはずであるが、そのようなガンマ線は観測されていない。つまり、標準的なWIMPモデルが正しいことが将来的に判明すると、PBHが超巨大ブラックホールであるという可能性は厳しく制限されることになる。また、これもPBHに関連した研究だが、初期宇宙における音波振動の散逸による小スケールの初期揺らぎの調査についても調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、原始ブラックホール(以下PBH)形成条件を精細に決定することが第一の課題であったが、これは達成することができた。様々なゆらぎの実空間でのプロファイルを与える5つのパラメータを含む関数を考案することで、先行研究で得られていたものより一般的な形成条件を探ることを可能にした。その関数の様々なパラメータの組に対応する初期ゆらぎのプロファイルを初期条件として数値シミュレーションを実行し、どのようなプロファイルのゆらぎからPBHが形成するのかを明らかにした。5つのパラメータで特徴付けられる非常に広範な範囲のゆらぎを調べたのにも関わらず、PBH形成条件がプロファイルを特徴付ける2つの量だけでよく記述できることを明らかにした。また、この研究に関連してPBH二重形成についても調べた。この現象はインフレーションで生成されるゆらぎをPBHの生成数を結びつける際に考慮する必要があるため、PBHを用いて初期宇宙を調べる上で重要である。また、暗黒物質ミニハローや初期宇宙における放射ゆらぎの散逸に関する研究も行ったが、これらの研究も小スケール原始ゆらぎを用いて初期宇宙を調べるという当初の目的に沿ったものである。このように、当初の研究計画に沿った研究をしてきており、本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、様々な初期ゆらぎのプロファイルのうちどのようなプロファイルからPBHが形成するのかが明らかになった。次に取り組むべき課題は、形成されるPBH質量の、ゆらぎのプロファイルに対する依存性である。この際重要になってくるのが、先行研究で報告されている、PBH形成の閾値付近で生じる臨界現象である。先行研究によると、閾値付近でゆらぎの振幅を変えた時に、PBHの質量があるべき則に従う。このべき則は、PBHの質量関数をインフレーションモデルを仮定したときに精細に計算することで、インフレーションに対する示唆を得る上で重要である。この臨界現象は先行研究では単純な種類のゆらぎのプロファイルに関してのみ調べらいたが、これを様々なゆらぎのプロファイルに一般化する。臨界現象を調べるためには、数値計算のグリッド間隔をある領域で細かくしていく必要がある。そのように改良したコードを用いて、一般的なゆらぎのプロファイルに対して臨界現象を調べる予定である。また、PBH形成に付随し得る現象として宇宙マイクロ波背景放射(CMB)のエネルギースペクトルの歪み(CMB歪み)がある。これは初期宇宙の音波振動が光子の散逸により減衰することで背景宇宙にエネルギーが注入され、その結果光子のエネルギースペクトルが黒体輻射からずれるという効果である。CMB歪みはPBH形成に付随し得るため、PBH及び初期ゆらぎを調べ、インフレーションに対する示唆も得られるため、この研究も行う。
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