研究実績の概要 |
宇宙には、星や銀河のように物質密度の高い領域と、星などが殆ど存在しない物質密度の低い領域とがある。宇宙論ではこの密度の濃淡を密度ゆらぎと呼ぶ。このゆらぎを様々な波長の成分に分解すると便利である。宇宙には星のスケール、銀河スケール、銀河団スケールなどの様々な波長のゆらぎがある。原始ゆらぎのパワースペクトルのうち、長波長側のごく一部は宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background, CMB)や宇宙大規模構造の観測から精細に決められている。一方、短波長の原始ゆらぎを調べることでも初期宇宙のゆらぎ生成機構に対する示唆が得られる。そのためには短波長原始ゆらぎが引き起こす宇宙論的な効果に着目する必要がある。例えば、短波長成分がある程度大きいと、星などができるよりはるか昔の初期宇宙で、宇宙を満たしている放射の密度ゆらぎが重力崩壊を起こし、原始ブラックホール(Primordial Black Holes, PBH)が多数形成する。 PBH形成を解析するためには、まず超ホライズンスケールの非線形なゆらぎの時間発展を解く必要があるが、その近似解を複数の座標系で定式化し、それらを用いて先行研究のPHB形成シミュレーション結果を統一的に理解した。また、PBH形成の環境効果についても調べ、これらの結果をPhysical Review D誌に発表した。 PBHを用いて短波長原始重力波を調べる新たな手法に関する研究もした。短波長原始の振幅が大きいと、テンソルゆらぎの二次の効果で振幅の大きいスカラー型摂動が誘起され、PBHが形成する。観測と矛盾するほどPBHが形成してはいけないという要請から、テンソルゆらぎの振幅に上限を与え、デルタ関数的な原始重力波のパワースペクトルに対しては宇宙マイクロ波背景放射やレーザー干渉計などから得られる制限よりも強い制限が得られた。
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