研究概要 |
地殻内の亀裂や媒質の不均質性と, 不均質領域を透過した地震波の持つ特徴について, 両者の関係を地震学的パラメタによって評価することができれば, 断層の成長にともなう構造変化を地震波形から推定することができるかもしれない. 断層帯の直接観察は困難だが, 実験室では岩石試料の物性を具体的に計測できるため, 透過波と媒質の関係を調べることが可能である. そこで初年度は, 岩石試料を透過した波の各位相の起源を把握するために, 透過波の数値計算による再現と, 実測波形との比較を行った. まず, 実測波形の取得をおこなった. 円柱形の花崗岩試料の表面に圧電型センサを貼付し, 試料内に弾性波を透過させた. レーザードップラー振動計で, 試料周表面上の6点における速度波形を取得した. 次に, シミュレーション用の媒質モデル作成のため, 岩石試料のX線CT画像を撮影した. 得られた画像の濃淡から媒質の密度分布を推定し, その強弱に応じた密度・速度を使って媒質モデルを作成した. このモデルを新たに構築した岩石試料用の2次元波動伝播シミュレーションコードに組み込み, 円柱形試料の円筒軸に対して垂直な断面における波動伝播を計算した. 空間4次・時間2次精度のスタッガード格子差分法によって, 試料の片側表面から波が入力された時の波動伝播を計算し, 得られた波動場からP波成分とS成分に分離したスナップショット画像を作成して評価した. その結果, 直達波の伝播過程で試料の周境界においてPS波などの変換波やSS波などの反射波が生成される様子が明らかになった. 時間の経過とともに試料の表面で何度も繰り返し波の反射と変換が起こり, 試料内に閉じ込められた波が複雑な後続相を形成する過程が観察された. 計算波形を実測波形と比較したところ, 実測波形と共通の位相が観察されたが, 異なる点もあるため, さらなる検討が必要である.
|