研究課題/領域番号 |
13J08245
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹俣 直道 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | ノンコーディングRNA / ストレス応答 / クロマチン / ヒストンアセチル化 / 分裂酵母 |
研究概要 |
近年、タンパク質情報をもたない長鎖ノンコーディングRNA (1ncRNA : long noncoding RNA)が様々な機能をもつことが明らかにされ、生命の複雑性を生み出す鍵として注目されている。研究代表者の所属研究室は、グルコース飢餓応答に関わる1ncRNAを分裂酵母で発見し、これをm1onRNA (metabolic stress-induced long noncoding RNA)と名付けた(Hirota et al., 2008)。m1onRNAは、糖新生に関わるfbp1遺伝子の上流から転写され、その領域のクロマチン構造を緩ませることでfbp1の転写を活性化させる。本研究では、クロマチン制御と密接に関わるヒストン修飾が、m1onRNAによる遺伝子発現制御とどう関わるかを検証した。 まず、fbp1領域のピストン修飾状態をクロマチン免疫沈降法により調べた。その結果、クロマチン弛緩に関わるヒストンアセチル化などの修飾が、fbp1の活性化時に亢進することがわかった。また、このアセチル化に関わる因子として、種間で広く保存されているヒストンアセチル化酵素Gcn5を同定し、この因子が実際にfbp1のクロマチン制御や転写活性化にも関わることを見出だした。さらに、m1onRNAの転写を起こらなくした株では、ヒストンアセチル化が阻害されることがわかった。以上から、Gcn5を介したヒストンアセチル化がm1onRNAの転写によって促進され、その結果fbp1の活性化が起こることが示唆された。 1ncRNAとヒストン修飾の関連はいくつかの生物種で報告されているが、その分子機構については不明な点が多い。本研究で用いている分裂酵母は遺伝子改変が容易であり、かつ動物細胞とも類似性が高い。このことから、本研究のさらなる進展により、1ncRNAによるヒストン修飾制御の分子メカニズムについて有益な知見が得られると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒストンアセチル化の責任因子としてGcn5を同定したこと、またGcn5によるアセチル化がm1onRNAの転写によって促進されることを見出だし、「m1onRNAの転写とヒストン修飾がどう連携しながらクロマチン制御を行うかを検証する」という研究目的を分子メカニズムにまで踏み込んで達成する目処が立ったため。
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今後の研究の推進方策 |
Gcn5によるヒストンアセチル化とm1onRNAの転写がどのように共役するかを分子レベルで解明する。まず、m1onRNAのGcn5の物理的な相互作用を検証し、これがfbp1領域でのアセチル化に重要かどうかを調べる。一方、Gcn5はDNA結合タンパク質によって遺伝子上に呼び込まれるという知見があることから、m1onRNAの転写がDNA結合タンパク質を介して間接的にGcn5の働きを制御する可能性も考えられる。この点を検証するために、いくつかのDNA結合タンパク質候補についても遺伝学的・生化学的解析を行う。また、fbp1領域でのクロマチン弛緩が、ヒストンアセチル化によってどのように促進されるのかを分子レベルで検証する。研究が十分に進展した場合は、fbp1遺伝子で得られた知見の一般性をゲノムワイド解析などにより検証する予定である。
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