本年度は、データベース構築・理論化を主とし、継続して研究を行った。通信調査・臨地調査地点は、総計1500地点にのぼり、多くの話者から協力を得ることができた。現在も継続して返送を待つものもあるが、ほぼ調査を終えている。また本年度は、博士論文を執筆することができた。また、本年度は、論文1本(査読有)、論文4本(査読無)、国内発表13回、国際発表4回行った。自身の研究を進めた結果、以下の分布傾向を導き出すことができた。 <瀬戸内海域の方言分布傾向>1.『瀬戸内海言語図巻』時の地理的分布の領域が拡張・退縮するもの。2.『瀬戸内海言語図巻』時の地理的分布の領域が拡張・退縮しないもの。 3.『瀬戸内海言語図巻』時の老年層でみられた語形が少年層では消え約60年経った今、使用の確認ができたもの。 大局的には、約50年という歳月が、各地で方言形を衰退させていることはいうまでもなく、年層語形がそのまま使用され続けられているか、かつての少年層語形が定着をみせているか、あるいは老年層で使用されていた語形が少年層では消え、峪口調査で新たに使用の確認できたことなど、言語変化が著しく、かつその方言変容の動きが地域、項目によって一律ではない傾向を空間的に把握することができた。 さらに、近畿中央部を中心に新たに発生したとみられる形式が瀬戸内海を西進していく状況を捉えることができた。つまり、関西中央語が瀬戸内海諸方言に影響を与え、徐々に伝播と拡散を繰り返していったと考えられる。これもまた、本論文の言語地理学的観点からの比較を行うことで得ることができた知見である。
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