研究課題
デルフィニウムは、植物色素であるアントシアニンの7位に2分子以上のp-hydroxybenzoic acid (pHBA)を修飾させたvioldelphinやcyanodelphinと呼ばれるポリアシル化アントシアニンを合成し、青い花色を発色する。当研究室では、2010年にデルフィニウムにおいてアントシアニン7位の配糖化がアシルグルコース依存型の配糖化酵素によって触媒されることを見出したが、7位配糖化後におけるポリアシル化機構については明らかにされていない。本研究では、青色デルフィニウム萼片から調製した粗酵素液を用いて、アントシアニン3,7-ジグルコシドを受容体、p-hydroxybenzoyl-glucose (pHBG)を供与体とした反応において、反応時間に依存して、アントシアニン7位に結合したグルコースにpHBAが結合し、次にpHBAに新たなグルコースが結合し、そして2つ目のグルコースに対して2つ目のpHBAが結合する計3つの反応を検出した。これら各々の反応を触媒する、配糖化酵素とアシル化酵素をディジェネレートPCR法により単離し、配糖化酵素については、大腸菌組換え酵素を用いた生化学的解析、アシル化酵素については、pHBAが修飾されていないアントシアニンを蓄積するデルフィニウム品種を見いだし、遺伝学的解析を行うことにより同定することに成功した。また、様々なデルフィニウム品種の色素解析を行った結果、7位が何の修飾もされていないアントシアニンを蓄積するモーブ色を呈した数品種を見いだし、この原因について解析してみたところ、これらの品種では、pHBGが蓄積されておらず、これはpHBAを受容体、UDP-グルコースを供与体としてpHBGを合成する配糖化酵素遺伝子の発現が、青色デルフィニウムのそれに対して、消失あるいは著しく減少した結果であることを明らかにした。すなわち、アントシアニン7位ポリアシル化機構において、先行研究で明らかにされたアントシアニン7位配糖化反応と、本研究で見出された1つ配糖化反応と2つのアシル化反応では、pHBGが必要不可欠であること、そしてグルコース供与体とpHBA供与体という1物2役を果たす鍵化合物であることを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
アシルグルコース依存型のアシル化酵素と配糖化酵素の存在は認識されているが、現在までの報告はどちらか1つの反応に着目したものであり、本研究では、明らかとなっていなかったアントシアニン7位ポリアシル化機構を明らかにするとともに、アシルグルコースの1種であるpHBGがアシル化酵素と配糖化酵素の共通の供与体として認識されることを初めて見出し、その価値は大きく、pHBGはZwitter Donorであるという新しい概念を提案した。
Cyanodelphinはvioldelphinを経由して合成されると考えられており、本研究では、violdelphinまでの生合成過程について明らかにしたが、その後の修飾反応についてはpHBGを供与体とした反応系では酵素反応産物を検出することはできなかった。このことからvioldelphin以降の修飾反応では、pHBG以外の物質が供与体として機能すると考えられる。当研究室では、violdephinを蓄積する品種を見いだしており、おそらくこの品種には、viodelphin以降の修飾に必須である供与体が蓄積していると考えられ、この品種の萼片抽出物を用いて、viodelphinからcyanodelphinに至る生合成過程を明らかにする。
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Journal of Experimental Botany
巻: (in press)
10.1093/jxb/eru134
The Plant Cell
巻: 25 ページ: 4150-4156
10.1105/tpc.113.113167
http://www.tuat.ac.jp/~ozeky