研究課題/領域番号 |
13J08331
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
遠藤 護 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 光周波数コム / カーレンズモード同期レーザー / 波長校正 / 任意波形生成 / 高繰り返し |
研究実績の概要 |
繰り返し周波数(すなわちレーザーの縦モード間隔)がGHzを超えるようなモード同期フェムト秒レーザー、およびその光周波数を安定化した光周波数コムを開発することが私の研究目標の一つであった。このような光源が開発できれば、例として天文用分光器の波長校正、任意波形を持つ光パルス生成、低位相雑音マイクロ波発振器などといった応用が可能となる。 1.15 GHz光周波数コムの開発 その目標に対して、平成26年度では、繰り返し周波数が15 GHzのフェムト秒レーザー、および光周波数コムの開発に成功した。この繰り返し周波数は、これまでに報告されているカーレンズモード同期レーザー・光周波数コムの繰り返し周波数である10 GHzを大幅に更新し、学会発表と論文の出版を行った。この光源は、空間光変調器を組み合わせて、縦モードを独立に制御し任意波形生成を行うこともでき、その成果は応用物理学会で招待講演として報告した。 2.4 GHzコムによる波長校正装置 先に述べた光周波数コムとは別に、4 GHzという比較的繰り返し周波数の低い光周波数コムも開発した。これは250 MHzのファイバーレーザーベースの光周波数コムに対して絶対周波数を位相同期しており、これと高分解能分光器(最高分解能600 MHz)を組み合わせることで、大規模な天文台でしか使われていないような、光周波数コムによって波長校正された分光器として使用できる。この波長校正システムは波長1000 nm帯で使用でき、これは地球型惑星の存在が期待され、近年注目され始めているM型矮星の測定に適している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
博士課程を通した目標の一つとして、繰り返し周波数が10 GHzを超えたモード同期レーザーの開発を挙げていた。この目標に対して、繰り返し周波数が15 GHzと世界最高の値を記録することができ、また当初予定していなかった光周波数の安定化(すなわち光周波数コムの開発)にも成功した。この光源の応用例として、特に任意波形成性に着目しその成果は論文や学会発表で報告し、特に第72回応用物理学会春季学術講演会ではこの光源を任意波形生成と絡めた内容で招待講演を行った。また、平成27年度の6月に行われる国際学会CLEO/Europe-EQEC 2015では、その成果に対しEPS-QEOD Travel Grant Student Awardsの受賞が確定している。 また天文用分光器の波長校正についても、4 GHzの光周波数コムと高分解分光器を組み合わせたシステムを完成させ、国際学会(CLEO: 2014、SPIE Astronomical Telescopes + Instrumentation 2014)で報告した。 現時点では、任意波形生成の研究に注力しており、波形を作るだけでなく測定手法やその応用(例えばGHzパルス列による物質内の音響フォノンの効率的励起・冷却)の準備をしている。最終年度内にこれらの実験の成果報告ができると考えている。 以上を踏まえて、現在までの達成度は概ね順調に達成していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度までで当初の主たる研究目標である「10 GHz以上の繰り返し周波数を持つフェムト秒レーザーの開発」を成し遂げることができた。そこで、最終年度ではそれを用いた応用に注力する。 1.任意波形生成技術の確立 モード同期レーザーの縦モードの振幅・位相を独立に制御するline-by-line 任意光パルス生成の元となるセットアップは26年度にほぼ完成している。とは言え、現状の実験セットアップは複雑であり、今後の応用実験あたり扱いやすいとはいえない。そこで、最終年度の前半では、任意波形生成器の制御法を改良し、パソコンからLabVIEW経由ですべての操作を行えるような構成を作り上げる。また、繰り返しがGHzの波形成形技術の応用として、光ファイバー内の音響フォノンの効率的励起・抑制が行えないか考察していく予定である。 2.天文用分光器の波長校正用光周波数コムの開発 15 GHzという縦モード間隔は天文用分光器の波長校正と非常に相性が良い。つまり、分光器で十分に縦モードを分解することができるため、縦モードをメモリとして使用することができる。また適度に”密に”縦モードが並んでいるため、分光器の局所的な非線形歪みも補正することができる(縦モード間隔が広すぎると、縦モード間の歪みを補正することができない)。これまでに開発してきた光周波数コムではスペクトル帯域が10 nm程度と狭いため広帯域な波長校正をすることができない。そこで、フォトニッククリスタルファイバーなどと組み合わせて超広帯域光を発生させ、M型矮星の分光に適した900 ~1300 nm程度の波長をカバーできるような光源に改良する。また、同時に長期的な安定性を確保するため、レーザー全体を温度調節可能で密封できるようなケースに入れて、気圧・温度変化に対してロバストにする改良も行う。
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備考 |
※米国光学会(OSA)が出版する学術雑誌の中から、特に注目すべき論文を月に10報程度紹介する"Spotlight on Optics"に、先述の論文"Direct 15-GHz mode-spacing optical frequency comb with a Kerr-lens mode-locked Yb:Y2O3 ceramic laser"が取り上げられた。
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