研究概要 |
本年度は, 熱物性評価による定量的な新たな医療診断技術を確立するため, 実用的な生体組織の熱物性測定手法の確立, および臨床実験を行った. まず, これまで構築してきた逆問題解析を用いた熱物性測定手法をより実用的にするために, 最適化パラメータを減らすための校正実験や, 逆問題解析時に用いる実数値遺伝的アルゴリズムの最適化等を行った. その結果, 熱物性推定に必要なCPU時間を大幅に減らすことができ, 臨床実験を行う際に熱物性推定を効率よく進めることができるようになった. その後, 本手法をヒトの皮膚などの生体組織に応用するために, 血流や代謝の影響を考慮することのできるPennesによって提唱された生体伝熱方程式を導入した. 本手法の有用性を検証するために, 研究室内において実際に複数名の被験者及びヒトの死体の前腕部の皮膚にて臨床実験を行った. 死体の皮膚の場合, 血流及び代謝の影響がないため, 生きたヒトの皮膚の結果と比較することによって, 本手法の有用性を確認することができる. 結果として, 生きたヒトの皮膚の熱拡散率と死体の皮膚の熱拡散率の値が血流及び代謝の有無に関わらず, 同等の値を示した. つまり, それらの影響を温度応答の影響のみから検出できた可能性を示した. 血液かん流率の結果は, 熱拡散率の場合と比較して, 推定値のぱらつきが大きくなった. この原因として, 血液かん流率は体調や気分などの状態によって大きく変化するためと考えられる. 以上の結果を過去の研究で測定された値と比較すると, 同等の値を示していることが分かり, 本手法を用いることによって, ヒトの皮膚の熱拡散率及び血液かん流率を妥当な値で推定することができたと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定の通り, 固体熱物性テスターを用いた逆問題解析手法を確立し, 生体組織に応用した. 本手法の有用性を検証するために行ったヒトの前腕の皮膚の臨床実験では, 妥当な熱拡散率及び血液かん流率の値を推定することができた. 今後, 様々な実験条件下における臨床実験や数値計算を行い, データベースの構築や伝熱現象の解明を行っていく.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で, 固体熱物性テスターを用いた逆問題解析手法によって, 生体組織の妥当な熱拡散率及び血液かん流率を推定可能であることが示された. 今後は, 諸種条件下(体の部位, 時間帯, BMIなど)にて臨床実験を続け, それらの条件が及ぼす影響を明らかにしていく. また, 諸種条件と熱物性値及び血液かん流率の関係に理論的背景を加えるために, 数値計算プログラムを新たに構築し, 生体内伝熱現象の解明を行う.
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