【具体的内容】 素粒子物理学の未解決問題の1つとしてstrong CP問題があるが、これを解決する有力なメカニズムである「Peccei-Quinn対称性の破れ」は、それに伴って軽い粒子axionを生じさせる。本年度の研究では、この対称性の破れ及びaxionの生成が初期宇宙で起こった場合に、その痕跡が原始重力波のスペクトルに刻まれている可能性に注目した。具体的には、Peccei-Quinn対称性を破るある模型を仮定し、重力波の発展を数値計算で追うことで現在の重力波スペクトルに特徴的な形状が現れることを示した。 将来的に重力波の観測でこの特徴が観測されるためには、原始重力波のスペクトルがある程度の大きさを持たなければならない。学会発表「Testing slow-roll inflation with hydrogen 21cm line」においては、この原始重力波の振幅がどの程度あるのかを調べる手段として水素ガスの21cm線に注目し、どの程度の精度で原始重力波の振幅が決定できるかを評価し、報告した。 【意義・重要性】 高エネルギー素粒子模型には、インフレーション・大統一理論・Peccei-Quinn機構等、多くの有力かつ興味深いものがある。しかしこれらの模型の実現されるエネルギー領域は、人間の到達できるそれをはるかに超えている。そのため本研究はこれらの模型に検証可能性を与えるという点で重要である。 また、近年のBICEP2実験により原始重力波の振幅がかなりの大きさを持つことが現実味を帯びてきた。そのため、将来のさらなる原始重力波観測への動機づけを与えるという点で本研究は非常に意義深い。
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