研究課題
二次元状に広がった構造を持つナノシートは、次世代のエレクトロニクス材料として期待され、研究が盛んに行われている。特に有機分子と金属イオンの配位結合からなる金属錯体ナノシートは、配位子と金属イオンの無限の組み合わせから生じる多彩な物性を持ち、溶液中でその構成要素からボトムアップ的に容易に合成できるという利点を持つ。本研究では、電気化学的な特性を付与した金属錯体ナノシートの合成とその物性を明らかにすることを目的とし、テルピリジン配位子と鉄イオンからなるナノシートの設計、合成を行った。このナノシートでは、金属イオン間の電子ホッピングによる電子輸送メカニズムが機能すると期待され、さらにシート構造の空孔を介して電解質が移動できることから、速やかな酸化還元反応を示す金属錯体ナノシートが合成できると予想できる。ジクロロメタン-水の界面で配位子と金属イオンを反応させる二層界面合成法で目的のナノシートの合成に成功した。ナノシートの同定はX線光電子分光法、電子顕微鏡法および原子間力顕微鏡法により行った。このナノシートを電極に貼り付けサイクリックボルタンメトリーを測定すると、ビステルピリジン部位に由来する酸化還元特性が0.74V vs. Ag^+/Agに、ナノシートの色が紫色から黄色に変化するエレクトロクロミズムを伴って観測された。紫外可視吸光分析により、ナノシート内のすべての反応サイトが反応し、その応答速度は0.35秒程度と速いことが分かった。また、1000サイクル以上反応を繰り返してもナノシートの崩壊は見られず、このナノシートが優れた耐久性を示すことが分かった。さらに、このナノシートとポリマー電解質を用い、簡易的なエレクトロクロミックデバイスの作製・動作にも成功した。これらの結果は、新しい電子ペーパーやウェアラブルデバイスへの応用が可能であることを示す結果である。
2: おおむね順調に進展している
本年度はビステルピリジン鉄錯体ナノシートのエレクトロクロミズムの発現を実現でき、その優れた応答性・繰り返し特性を明らかにすることができた。さらにこのナノシートを用いた簡易的エレクトロクロミックデバイスの作製にも成功した。これらの研究の進展から、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
本研究で合成したエレクトロクロミックナノシートは、様々なディスプレイ・ウェアラブルデバイス等に応用できる。そのためにはこの系のさらなる発展が必要であるため、金属イオンを鉄からコバルトやルテニウムに変更し、あるいは配位子に置換基を導入することでナノシートの多彩化を行う。また、複数種類のナノシートを複合化することにより、マルチカラーのエレクトロクロミックデバイスが実現できると考えられる。合成時に複数の配位子および金属イオンを用いることで、金属・配位子混合型のナノシートの作製をめざす。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (6件) 備考 (1件)
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