研究概要 |
複数の金融資産間の共分散構造を, 高頻度データから推定する問題を研究した. 金融資産の共分散構造は, 実務においてはリスク管理等において重要な役割を果たすため, その推定は重要である. また, 高頻度データは, 近年のIT技術の進歩によって容易に入手が可能になり, そのデータ量の多さから, そのようなデータの利用によって推定の精度を向上させる可能性があることが期待できる. 他方, 昨今の研究によって, 高頻度データには従来の低頻度データには見られない種々のイレギュラーな性質が見られることがわかってきた. 本研究では, そのようなイレギュラー性を考慮した下で共分散構造を推定する手法の開発を行った. 具体的には, 第一に, 金融資産の価格の時系列は, 低頻度領域では拡散過程と呼ばれる数理モデルで記述できることが知られているが, 高頻度領域ではそのモデルに矛盾する現象が現れてくる, そのため, 高頻度領域では市場の構造に起因する観測誤差(マイクロストラクチャーノイズと呼ばれる)が存在すると考え, そのような状況下で共分散構造の推定手法を開発するという研究分野が近年主流となっている. そのような手法のひとつに, データの重みつき平均を考えることで観測誤差の影響を低減するという方法がある. しかし, どのような重みを選ぶのが理論的に最適かということはわかっていなかった. 本研究では, 従来の研究で考察されていた重みのクラスを拡張することで, 理論的に最適な重みを見つけることに成功した. 更に, この重みを用いることで, 推定量の計算を従来のものより高速化できることがわかった. この結果は, 実務の面で有効かつ高速に金融資産間の構造を推定するという課題を解決するのに役立つことと思われる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目標通り, 近年の高頻度データに関する統計解析で問題となっている, マーケット・マイクロストラクチャーから引き起こされる問題を解決するための数学的基礎の構築ができたため. また, 国内外の研究集会に多く参加し, 最近の研究の進展に関して有益な情報収集ができたため。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究で得られた研究成果を計算機に実装し, 理論の有効性を数値実験によって検証する予定. あわせて, 今年度の研究で得られた結果をもとにして, 実際の金融高頻度データに適用し, 手法の有効性および問題点を検証していく予定. また, 実務的な金融の問題に対する応用では, 問題が複合的になる場合が多々あるため, 今年度に得られた成果以外にも, 別の分野で開発された手法が必要となる可能性が高い. そのため, 今年度に得られた結果と他分野の手法を複合的に用いた手法について, 理論および数値実験の両面から検証していく予定. 更に, それらの得られた結果を報告するために, 国内外の研究集会に多く参加する予定.
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