本年度は、当初の研究計画に従い、遺伝子ノックダウンにより、これまでの最終的な裏づけを得る予定であった。しかし、本年度の研究では、当初の実験動物における有効な実験系を確立できなかった。このことから、本年度は、実験動物を変更し、改めて一から研究に取り組むこととした。 様々な種の比較検討の結果、以降の研究では、淡水性ザリガニProcambarus fallax f. virginalisを用いることとした。まず、RNA seqを行い、実験に必要な遺伝子の塩基配列のデータベースを作成した。次に、RNAiによって、有効な遺伝子ノックダウンの実験系を確立した。その後の遺伝子発現動態の分析および遺伝子ノックダウンの結果、Na+/K+-ATPaseが浸透圧調節のための重要なタンパクであることが示された。Na+/K+-ATPaseは、αおよびβサブユニットから成る細胞膜上の酵素で、様々な生理現象に伴う物質輸送の駆動力を司っている。脊椎動物と異なり、これまで十脚甲殻類では、全身で発現する1種のみが知られてきた。しかし、本研究では、鰓・卵巣特異的に発現する第二のNa+/K+-ATPaseを発見することに成功した。また、本種のNa+/K+-ATPase の特徴は、αサブユニットよりもβサブユニットのノックダウンで明確な血液浸透圧の低下を示したことであった。これは、αサブユニットには、機能を互いに補償するサブタイプがあることを示唆していた。これを裏付けるように、本研究において作成した塩基配列のデータベースには、βサブユニットと比較して多様なαサブユニットが存在していた。 以上の研究によって、十脚甲殻類のNa+/K+-ATPaseにおいて、脊椎動物と同様に進化の過程で遺伝子重複が進んできたことが示唆された。本成果が、動物のNa+/K+-ATPaseの進化を解明するための糸口となることが期待される。
|