研究概要 |
人間の集団行動と物質系システムの振る舞いは, 一見異なるように思えるが, その数理モデルは似ていることがある. 金融市場の場合, 参加者の目的は「安く買い, 高く売る」ことであるので, 洗練された参加者同士はその行動が似通る. このような協調行動は, 数理物理の道具を用いれば, シンプルに記述できる可能性があり, また既存の物理現象と経済現象の類似性を実証的に指摘する研究になると考え, 本研究に取り組んでいる. また, 金融市場は経済活動と密接に関わっており, その動乱は社会経済を揺らがす原因としてしばしば挙げられるが, 本研究は, 市場の数理モデルを構築することで, 金融市場を監視している中央銀行などが, 昨今社会問題となった金融危機などの異常事態をシミュレーションできる技術開発に繋がり, その社会的意義は大きい. 実施した研究では, 市場の注文情報のデータ解析を終え, 「仮想的なコロイド粒子(市場価格に対応)が溶媒分子(指値注文に対応)の流れの中でランダムウォークしている描像」が適用できることがわかった. また、データから観測された統計的な性質は, ブラウン粒子の運動を記述する式のひとつであるランジュバン方程式で記述できることもわかった. 加えて, アインシュタインがコロイド粒子の変動に対して考察した揺動散逸定理が金融市場においても同様に成り立つことを, データから実証できたことは, 世界で初めてである. 得られた研究成果をまとめ, 米物理学会誌Phys. Rev. Lett.に投稿し, 掲載された. なお, 投稿から掲載されるまでの間に国際学会でポスター発表を1回, 国内学会において口頭発表を2回行った.
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