昨年度に引き続き、今年度は夏季までフランスのパリ第4大学ソルボンヌにて、ジェラール・フェレロル教授の指導のもと研究活動を行った。また、春には、哲学におけるベール研究の第一人者のジャンニ・パガニーニ教授(イタリア・東ピエモンテ大学)の来日講演で口頭発表を行い、研究指導を受けた。これらの成果から、博士論文に、以下のような新たな知見を取り入れた。これまでは、ベールを、ポール・ロワイヤル、ボシュエとの関係から論じ、ベールの反プロテスタント的側面へのアプローチを試みてきたが、それに加え、 1 中世神学からの流れでベールの国家と個人像を位置づけた。共同体の基本単位を家族とするアウグスティヌスに対し、ベールは、国家の最小構成単位を個人として考え、法の遵守による社会形成を考える。このベールの立場はトマスの流れ汲む。この個人と社会の関係から、自然法を基礎とする法の問題を論じる。 以上の成果を5月の学会発表で発表する。 2 ベールの思想へのアプローチとして、意思、知性(悟性)、良心の権利の関係を、マルブランシュ、デカルト、エリ・メルラらの関連から探り、ベールの寛容の基本概念の「迷える良心の権利」「打ち克ちがたい無知」を再考した。ベールは、デカルトにおける意思と誤謬の繋がりを、メルラやマルブランシュを援用しつつ再読し、誤謬と無知の関係を問い直す。権利の行使の問題はこの関係の中で考えられる。ここから、自然法への打ち克ちがたい無知の議論が、自然法と道徳の問題から争われた中国の典礼問題へのベールの態度が、アルノーと共有されつつ発展させられたのを見る。 1と2の成果の融合で、自然法などの問題系から、ベールの政治論と思想を併せて論じることが可能になるだろう。このことが、両者を別個に扱いがちだった、これまでの先行研究に対して、綜合的視野を示すことが期待できる。
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