1、ジョルジュ・ペレック作品におけるユダヤ人的特徴を検討した。 (1)ユダヤ人問題に関するペレック本人の意識の変遷を、母親のアウシュビッツでの死、マルクス主義への傾倒を原因とした宗教と民族性の否認、自伝的作品の構想を通したユダヤ人意識の芽生えといった分岐点を通して明確化した。 (2)家族の喪失やアイデンティティの欠如といった、ペレック関連の先行研究でもユダヤ人問題の枠組みで扱われてきたテーマを再検討すると共に、そうした「欠落」という概念によって規定されるユダヤ性を、ジャン=ポール・サルトルやジャック・デリダが戦後のユダヤ人について示した認識にも共通するものとして確認した。 (3)カバラ思想にまつわるペレックのエピソードを、伝記、書簡、対談記録などから収集、整理、検証しながら、そのユダヤ的思想と彼の作品が持つマニエリスム的側面との関係を検討した。 (4)以上をふまえ、アルベール・コーエン、パトリック・モディアノといった他の現代ユダヤ系フランス人作家との比較を行い、ペレック作品におけるユダヤ的要素の特殊性を明らかにした。 2、所属機関である学習院大学での共同プロジェクトの枠組みにおいて、ペレックが一員をなした文学集団「ウリポ」と、それに先行するシュルレアリスム運動との関係について研究を行い、その成果を論集にて発表した。しかるのち、ここで行った調査を土台に研究範囲を「20世紀の前衛文学・芸術グループ」にまで広げ、論考を進めた。
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