研究課題/領域番号 |
13J08594
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井上 紗綾子 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 緑泥石 / 蛇紋石-緑泥石混合層鉱物 / 高分解能透過電子顕微鏡法 / 粉末X線回折 / Sybilla |
研究概要 |
熱水作用によって形成されたFeに富む緑泥石の結晶構造の高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)観察を行い、その形成条件について考察した。北海道豊羽、秋田県荒川、尾去沢、宮城県細倉、山形県八谷、栃木県足尾鉱山に産する幅広いFe含有量をもつ緑泥石(Fe/(Fe+Mg)=0.5-1)を観察した。これらの岩石薄片を作製し、集束イオンビーム法(FIB)を用いTEM観察試料を作製した。また、X線光電子分光法により緑泥石中のFe^<3+>/ΣFeを決定し、緑泥石地質温度計を用いて形成温度を決定した。その結果Feに富む緑泥石中では蛇紋石-緑泥石混合層構造が一般的にみられることが明らかにされた。さらに緑泥石層と蛇紋石層の積層構造は異なるタイプの積層構造が不規則に混合していることが示された。観察した緑泥石は形成後変成作用などを受けておらず、緑泥石が形成されるときに直接蛇紋石-緑泥石混合層構造が準安定的に形成されたと考えられる。先行研究でも蛇紋石-緑泥石混合層鉱物のTEM観察結果は報告されてきたが、各層の積層構造を決定できる方位からHRTEM像を報告したのは本研究が初めてである。先行研究では蛇紋石-緑泥石混合層鉱物は緑泥石の低温準安定相であると考えられていたが、本研究の結果では蛇紋石-緑泥石混合層構造の出現と形成温度の明確な関係はなかった。一方でFe/(Fe+Mg)比とは関係がみられ、平均Fe/(Fe+Mg)=0.41の秋田県尾去沢鉱山の緑泥石中には蛇紋石-緑泥石混合層構造は観察されなかった。これまでFeに富む緑泥石の形成機構と蛇紋石-緑泥石混合層構造の関係についてはほとんど考察されてこなかったが、本結果はFeに富む緑泥石の積層構造の形成に蛇紋石-緑泥石混合層が重要な役割を果たしている可能性を示唆するもので、緑泥石の積層構造の形成機構の解明に重要なものである。またHRTEMで観察された蛇紋石-緑泥石混合層が試料全体で観察されるものなのかを調べるためにSybillaを用いてX線回折(XRD)パターンのシミュレーションも行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Feに富む緑泥石に注目し本年度はまず日本国内の熱水系に産出する緑泥石の結晶構造のTEM観察を行い蛇紋石-緑泥石混合層が一般的に観察されることを明らかにしたことで、緑泥石の積層構造の形成条件として化学組成が従来考えられていた以上に重要であることを示すことができたため。
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今後の研究の推進方策 |
10月-11月にフランスPoitiers大学に滞在し、続成作用によって形成された緑泥石の試料を入手した。今後は続成作用によって形成された緑泥石についてもHRTEM観察を行い形成された地質環境と結晶構造の関係についても考察を行う。また、走査透過電子顕微鏡(STEM)による緑泥石の構造観察についても緑泥石の分析の最大の問題である電子線損傷を最小限にする方法を工夫しより詳細な緑泥石の結晶構造解析のために行う予定である。
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