研究課題/領域番号 |
13J08617
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上田 葉介 名古屋大学, 文学研究科, 特別研究員DC2
|
キーワード | アリストテレス / 第一質料 / 『形而上学』 / 質料形相論 / 『生成消滅論』 / 四元素論 / 第五元素、アイテール / 空間的質料 |
研究概要 |
アリストテレス研究におけるキーワードとなる第一質料については、従来は『形而上学』を中心とした質料形相論と、『生成消滅論』を中心とした四元素論との二つの議論から吟味されてきた。本研究では両議論において第一質料と目されてきたものが合致するかどうかを検討することを目的としているが、今年度はとりわけ『生成消滅論』を中心とした四元素論を扱った。 アリストテレスの『生成消滅論』における四元素論は、あらゆる物体が究極的には四つの元素から構成されることが述べられるが、重要なのはこの四つの元素が相互に変化するという点である。アリストテレスは『自然学』において物体変化が変化の前後において物体の同一性を担保するために「変化せずとどまる要素」を必要とすることを論じている。この記述はすなわち、究極的であるはずの元素がさらに「変化せずとどまる要素」を有していることを示している。従来はこの元素の要素こそ第一質料であると目されてきた。第一質料は『形而上学』における質料形相論では、一切の形相(性質)をはぎ取られた裸の質料(性質を担う素材)として考えられているが、同様の存在が四元素論の中にもみられることからアリストテレスの思想に通底する概念として考えられうるというのが従来の考えであった。 2013年度の成果としては、こうした従来のアリストテレス像に疑義を呈することができたことがあげられる。アリストテレスの元素論は、月下の世界については四元素がこれを構成するが、天上の世界についてはこれを第五元素、アイテールが構成している。月下の世界と天上の世界は没交渉的であり、やり取りを行わない。私はまず四元素論があくまでも月下の世界における議論であることを再確認した。なるほど確かに月下の世界では四元素が相互変化し、この四元素には「変化せずとどまる要素」として共通する要素が存在している。しかし従来の観点では見逃されていた第五元素をこの議論に持ち込んだ場合、第五元素と四元素は相互に変化しないのだから、共通する要素を持たない。よってこの四元素に共通する要素は第一質料ではない可能性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アリストテレスの元素論には、アリストテレスを現代的な視点で見てしまっていた感があり、従来第五元素にはあまり研究の光が当たってこなかった。この第五元素に焦点を当てられたことはよかったが、第五元素に関する先行研究が少なく、進展は想定通りのものになっている。
|
今後の研究の推進方策 |
第五元素の研究を進め、続いて質料形相論を再検討し、両議論にみられる質料概念を比較吟味する予定である。第五元素ないしアリストテレス的世界観は現代ではあまり顧みられることはない。本研究は従来のアリストテレス像をより本来的なアリストテレス像へと立ち返らせることにつながる。 本研究のネックは、第五元素についての先行研究がやや少ないことである。対応策として検討しているのは、資料についてこれまで参考にしていた範囲を広げ、よりアリストテレスと近い世界観を有していた新プラトン主義期の注釈書を扱うことである。アリストテレス的世界観は現代ではもはや力を有していないが、新プラトン主義期はまさに世界がアリストテレス的世界観の中で動いていた時代であり、第五元素に関する議論も多くなされている。
|