アリストテレスの『生成消滅論』における四元素論では、あらゆる物体が究極的には四つの元素から構成されることが述べられるが、重要なのはこの四元素が相互に変化するという点である。アリストテレスは『自然学』において物体変化が変化の前後において物体の同一性を担保するために「変化せずとどまる基体」を必要とすることを論じている。 四元素論はあくまでも月下の世界における議論である。月下の世界では四元素が相互変化し、この四元素には「変化せずとどまる基体」として共通する要素が存在していると考えられる。しかしながらアリストテレスは、月下の世界については四元素がこれを構成するが、同時に天上の世界についてはこれを第五元素、アイテールが構成するとしている。そしてこの第五元素と先に述べた四つの元素が相互に変化することはない、とはアリストテレス自身が論じているところである。第五元素と四元素は相互に変化しないのだから、両者が共通する基体を持つとすべきかどうかは検討が必要になる。本研究の目的は、従来見逃されていた第五元素を四元素論と併せて考え、両者の関係を吟味することにある。 平成26年度の成果は『形而上学』8巻1章、12巻2章における「場所についての質料(hyle kata topon)」に着目した研究である。月下・天井の物体は「移動する」ということにおいて、月下物体は直線運動、天上物体は円運動という違いはあれども、共通する。このことは少なくとも移動という場所的転化においては月下・天上の物体に共通して「場所についての質料」が必要であることを示唆している。「場所についての質料」を月下と天上に限定してそれぞれ吟味し、月下の物体の「場所についての質料」と、天上の物体の「場所についての質料」の異同を論じ、これを踏まえていわゆる第一質料と、ここで論じている「場所についての質料」の異同を論じることに繋げた。
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