研究課題/領域番号 |
13J08622
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
十河 秀行 東京工業大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アルキン / 不飽和カルベン錯体 / シロキシジエン / 付加環化反応 / シクロヘプタン / 水素移動 / シクロプロパン化 / レニウム |
研究実績の概要 |
α、β-不飽和カルベン錯体中間体は、カルベン錯体として反応に利用できるだけでなく、三炭素ユニットとしても利用することが可能な合成化学的に有用な化学種である。各種の不飽和カルベン錯体中間体の触媒的な発生手法が報告されているが、最も単純な不飽和カルベン錯体中間体であるビニルカルベン錯体中間体の触媒的な発生手法は、ジアゾ化合物を用いた例が数例報告されているにとどまっており、その合成化学的な利用例も少ない。そこで筆者はビニルカルベン錯体中間体の簡便な発生法ならびにこれを利用した炭素骨格構築法の開発を行うこととした。 様々な金属触媒および基質を検討したところ、1-((2-Methylbut-3-yn-2-yloxy)methyl)benzeneと等モル量のシロキシジエンに対し、MS4A存在下、2.5mol%のReI(CO)5を1,4-ジオキサン中、100℃にて8時間作用させることで、目的のシクロヘプタジエン誘導体が痕跡量の異性体との混合物として収率74%で得られることを見いだした。想定反応機構は次の通りである。すなわち、求電子的に活性化されたアルキン部位への1,4-水素移動、あるいはビニリデン錯体中間体の形成、続く1,5-水素移動が進行し、続いてここからカルボニル化合物が脱離することで不飽和カルベン錯体中間体が発生する。これがシロキシジエンとシクロプロパン化反応を起こした後、ジビニルシクロプロパンのCope転位が進行し、シクロヘプタジエン誘導体が得られたと考えている。本手法は、これまで報告例のなかった新規不飽和カルベン錯体中間体の簡便な発生法であるだけでなく、生理活性天然物にも見られるシクロヘプタン骨格を分子間反応により容易に構築できる有用な手法である。今後、基質一般性の検討を行うとともに、生理活性天然物などの有用化合物の合成に利用していきたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は触媒的な発生法ならびにその利用例の少ないビニルカルベン錯体中間体を、入手容易な基質を用いて簡便に発生させる新規手法ならびにこれを利用した有用な炭素骨格構築法の開発に取り組んできた。その結果、入手容易なプロパルギルエーテルを基質として用い、これに対して触媒量のRe(I)触媒を作用させることで目的のビニルカルベン錯体を発生させることに成功した。さらに、ビニルカルベン錯体中間体の捕捉剤としてシロキシジエンを基質に対して等モル量用いるだけでシクロヘプタジエン誘導体が得られることも見いだしている。本手法は、少量のRe(I)触媒を入手容易なプロパルギルエーテルおよび基質に対して等モル量のシロキシジエンに作用させるだけで収率よく進行する高効率的な反応であることに加え、生理活性天然物にも見られるシクロヘプタン骨格を分子間反応により簡便に構築できる合成化学的に非常に有用な反応である。以上の理由により、本計画はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後、ビニルカルベン錯体中間体を利用した様々な反応の開発を行っていく。まず、様々な置換基を有するシロキシジエンとの反応を検討し、その基質一般性の拡張を行う。この際、本反応を利用した生理活性天然物合成へと展開できるような基質設計のもとで検討を行っていく。この他に、シロキシジエン以外のカルベン捕捉剤も併せて検討する。ビニルエーテルや電子豊富アルケンを用いたシクロプロパン化だけでなく、カルベン錯体中間体との反応が知られているシランを用いたアリルシラン合成、さらにカルボニル化合物やイミンとの反応により1,3-双極子を発生させ、付加環化反応が行えないか検討する。また、新規不飽和カルベン錯体を用いた反応の展開として、分子内反応も検討する。求核部位を有するプロパルギルエーテル誘導体を用いることで、生じた不飽和カルベン錯体中間体を分子内反応により捕捉し、様々な環状骨格を構築できないか検討を行う。分子内のカルベン捕捉剤として、上述した捕捉剤に加えてC-H挿入反応を利用したC-H官能基化も検討する。分子内反応へと展開するにあたり、生じる不飽和カルベン錯体中間体の不飽和結合部位のE/Z選択性をコントロールすることが重要であると予想される。そこで、溶媒や金属触媒、種々の添加剤などの反応条件の検討に加え、基質であるプロパルギルエーテル誘導体のエーテル部位の置換基の検討も併せて行っていく。
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