研究実績の概要 |
α、β–不飽和カルベン錯体中間体は、カルベン錯体として反応に利用できるだけでなく、三炭素ユニットとしても利用することが可能な合成化学的に有用な化学種である。各種の不飽和カルベン錯体中間体の触媒的な発生手法が報告されているが、最も単純な不飽和カルベン錯体中間体であるビニルカルベン錯体中間体の触媒的な発生手法は、ジアゾ化合物を用いた例が数例報告されているにとどまっており、その合成化学的な利用例も少ない。そこで筆者はビニルカルベン錯体中間体の簡便な発生法ならびにこれを利用した炭素骨格構築法の開発を行うこととした。 様々な金属触媒および基質を検討したところ、2-メチル-2-ベンジルオキシ-3-ブチンと等モル量のシロキシジエンに対し、MS4A存在下、2.5mol%のReI(CO)5を1,4–ジオキサン中、100℃にて4時間作用させることで、目的のシクロヘプタジエン誘導体が収率良く得られることを見いだした。本反応には様々なプロパルギルエーテル誘導体やシロキシジエン誘導体が利用でき、対応するシクロヘプタジエン誘導体を収率よく与えた。想定反応機構は次の通りである。すなわち、末端アルキンからビニリデン錯体中間体の形成、続く1,5–水素移動が進行し、続いてここからカルボニル化合物が脱離することで不飽和カルベン錯体中間体が発生する。これがシロキシジエンとシクロプロパン化反応を起こした後、ジビニルシクロプロパンのCope転位が進行し、シクロヘプタジエン誘導体が得られたと考えている。本手法は、これまで報告例のなかった新規不飽和カルベン錯体中間体の簡便な発生法であるだけでなく、生理活性天然物にも見られるシクロヘプタン骨格を分子間反応により容易に構築できる有用な手法である。
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