今年度は量子測定の弱測定の信号検出能力に関して研究を行った。この研究は例えば重力波検出器のような測定結果から信号の有無を判定する上で、通常の量子測定より弱測定の方がより検出力が高いことを解析的に証明した。本研究の解析には、標準的かつ伝統的な統計的推測の手段の一つである仮説検定を用いた。通常の量子測定では事前準備した測定器系と事前選択された被測定系を相互作用させたあとに測定器系が示す値(測定前からどの程度変化したか)を読み取ることでどのような相互作用あったかを知ることができる。この相互作用が測定したい信号である。一方で、弱測定では相互作用後に被測定系の終状態を事後選択する。事後選択は特定の状態のみを選択的に取り出す操作である。適切な事後選択を行うと測定器系が示す値は通常の量子測定より大きくなる。この大きさは“弱値”という量によって決まるため、この効果は弱値増幅と呼ばれる。
測定結果より相互作用があったかなかったかを判定するには数理統計的には仮設検定を用いて考察される。仮設検定では背反する2つの仮説のうちどちらがより正しいかを測定結果を適当に設けた判断基準に照らし合わせて判断を行う。本研究では、我々は得られた測定結果が初期の測定器系の揺らぎ幅より大きければ相互作用があったと判断するという基準を提案した。この判断基準は数理統計的には一様最強力不偏検定であることが証明できる。この判断基準の基では、弱値が被測定系の観測量の固有値より大きい場合、通常の測定より弱測定の方が検出力が大きくなることを示せた。
これまで弱値増幅は、弱値が大きくなることで測定器系の変化が大きくなるため技術的に有用であるとの理解であったが、これは近似計算による示唆であった。今回の研究では近似を用いずに弱値が大きくなると検出力が大きくなるという、弱値増幅の数理統計の見地からの理解を与えることができた。
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