研究課題/領域番号 |
13J08663
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大杉 廉人 東北大学, 大学院工学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | スピン / FePt / GaAs |
研究概要 |
当該年度において、L1_0-FePt/MgO面直磁化スピン注入源からn型半導体への電気的スピン注入を、光学Kerr効果を用いて観測した。具体的にはn型GaAs基板上にFePt/MgO構造をスパッタで成膜し、微細加工よって作成したデバイスをNTT基礎物性研究所に持参し、光学Kerr測定装置でKerr効果を測定した。 Kerr効果では、FePt/MgOから注入されたGaAs半導体中の面直方向のスピン偏極電子群に直線偏光を照射し、偏極したスピンと光のカップリングから反射光の反射率の変化をシグナルとして得ることで、スピン注入を確認した。ここでスピン偏極率とKerrシグナルは比例関係にあることからKerr効果によってスピン偏極を検出することができる。 ●GaAs中の注入スピンの緩和時間を時間分解Kerr効果で測定しスピン緩和時間6.5nsを得た。 ●GaAs中のスピンの拡散長10μmおよび拡散定数15.7μm^2/nsを得たこの値は電子の拡散定数の250倍であることが、同デバイスで測定された。 ●光ポンピングによって作り出されたスピンのドリフト拡散をバイアスを変化させ測定し、そのバイアス応答を詳細に調べた。結果3V印加時にスピンドリフト長13.3μmを得た。 ●電気的スピン注入によって作り出されたスピンのバイアス3V印加のスピンドリフト長13.3μmが光ポンピングの値と一致したことはスピン注入の確証となる。 ●スピン注入後、磁場をスピンと直角方向に印加し、そのスピンの磁場周りの際差運動を磁場に対して測定することにより、スピン緩和時間を得た。(Hanle効果)スピン緩和時間4.5±2.2nsは時間分解Kerr効果で測定しスピン緩和時間6.5nsと近い値となり、スピン注入の確証となった。 スピン検出を空間・時間を追って測定することにより、注入後のスピンがGaAs中でどのように輸送されるのかを空間・時間的に詳細に調べることに成功した。この実験から、現実的なスピン効果トランジスタの設計思想が確立された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
注入スピンの光学Kerr効果を時間・空間に対して測定することによって、スピン緩和時間・スピン拡散長を正確に求めることができ、これらのパラメーターを用いることで、スピンホール効果トランジスタのサイズなど設計方針が決まったため、進展していると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、半導体二次元電子ガス(2DEG)を有する基板を作成し、2DEGにスピンが注入されることを非局所スピンバルブ測定という、注入後、拡散したスピンを電圧として検出する方法を用いて確認する。この際、スピン注入効率は材料選択やその膜厚・ドーピング濃度に大きく依存するため、実際にスピン注入を行い、さまざまな基板の中から理想的な構造を選び出さなければならない。次にスピンホール効果トランジスタを微細化工法により作成し、そのゼロ磁場動作を確認する。この際には、スピンホール効果トランジスタのサイズは非常に小さいために、50nmの描画性能をもつ電子線リソグラフィを用いて作成しなければならない。最後に実際にAND回路からOR回路等のデバイス書き換え動作を確認したことをもって、書き換え可能論理回路をゼロ磁場で動作可能なスピンホール効果トランジスタの完成とする。
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