研究課題
当該年度において、GaAsへのFePtからの面直スピン注入とその輸送を観測し、国際学会誌Journal of Apllied Physics D(R Ohsugi et al 2015 J. Phys. D: Appl. Phys. 48 164003)に掲載され、一件の国際学会と国内学会で成果を発表した。具体的にはFePt面直磁化膜からGaAs(半導体)に電流によりスピン偏極電子群を注入し、GaAs中での磁場による際差運動を光(空間分解Kerr効果)を用いて観測した。この結果からGaAs内への面直スピン注入・輸送を実証した。この、GaAs内への面直スピン注入から輸送は現在まで実現されておらず、本研究の目的であるスピントランジスタの開発に大きく貢献したと考えている。また、実験ではスピン注入する際の印加電圧を変化させ、スピンシグナルの印加電圧応答特性を詳細に調べた。その結果、スピン注入効率は印加電圧に対して非線形的な応答を示し、その非線形性はFePt/MgO/GaAs界面の電子スピン状態密度に起因すると考えている。GaAs中のスピン緩和時間は5 Kで約4 nsほどなり、従来のGaAsのスピン緩和時間100 nsよりも小さい値となった。これはスピン注入の際にGaAs半導体構造の高濃度ドーピング層を通過した際のスピン緩和を経たためだと考えている。一方でスピン緩和時間の印加電圧依存性は、印加電圧に対してわずかに上昇する傾向が見られ、予想していた依存性と異なるものとなった。GaAs中のスピン軌道相互作用によるスピン緩和は電圧を上げるほど促進される傾向にあるが、本研究での逆の依存性は、スピンがSiドーパントに弱く束縛された領域で、予想したスピン緩和機構とは異なるものが働いたためだと考えている。
2: おおむね順調に進展している
FePt面直磁化膜からGaAsへスピン注入し、さらに、その輸送特性(スピン注入率・スピン緩和時間)の印加電圧依存性を詳細に調べることに成功した。このことは本構造を用いることによってスピントランジスタを作成することができ、その後、スピンを制御する段階に入ったことを意味するためである。
面直スピンをGaAsに注入・輸送できることがわかったため、続いては、注入したスピンの制御段階に移行する。この実験では注入したスピンにゲート電場を印加し、そのゲート電場に制御されたスピン軌道相互作用を用いて、スピンの向きを操作する実験を行う。予想される問題点は半導体へテロ構造の膜厚の関係から、ゲート電場の効きが抑制されてスピン制御が非効率的になることであり、その際は半導体へテロ構造を微細加工により薄くし、ゲート制御性を高効率に調整する必要がある。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件)
Journal of Physics D
巻: 48 ページ: 164003-1-5
10.1088/0022-3727/48/16/164003