研究課題/領域番号 |
13J08664
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮下 惇嗣 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | カイコ / 感染症 / O-157 / コオロギ / 感染モデル / LPS / ペプチドグリカン / 自然免疫 |
研究実績の概要 |
腸管出血性大腸菌O-157によるカイコ感染モデルを用いて、カイコは体液中に侵入したグラム陰性菌のペプチドグリカンに応答し、自身の感染抵抗性を導くシステムを有するということを明らかにしてきた。本年度は当該研究成果を原著論文としてまとめるとともに、経口投与によって腸管に曝露されたペプチドグリカンに対しても同様に応答し、グラム陰性菌に対する感染抵抗性を獲得することを示した。これらの機能をPrimed immune responseと名付け、抗体を持たない無脊椎動物の免疫システムにおける、新しい後天的な応答調節メカニズムとして提唱するに至った。一方、大腸菌の高病原性化変異株を用いることによって、グラム陰性細菌の細胞膜を構成成分とする動物殺傷因子に迫ることができた。ここで同定された機構は、O-157の高い殺傷活性や、これまで明らかにしてきたO-157のLPSO抗原のカイコ殺傷性に対する寄与を包括的に説明する機構であるとともに、グラム陰性細菌において広く保存された分子メカニズムであることを、O-157およびその遺伝子欠損株、ならびに緑膿菌を用いて明らかにした。以上の結果は、カイコモデルを用いた宿主ー病原体相互作用の解明を強く押し進めることにつながる一方で、カイコで見出された宿主と病原体の相互作用がいかほどの普遍性を持つ法則であるかという疑問が残る。この問題を克服するために、カイコとは異なる種であるコオロギを用いた感染モデルの確立に着手するとともに、コオロギを用いた自然共生細菌と宿主動物との相互作用の解析を行い、特に個体の成長を促進する機能を有する細菌がコオロギの腸管に存在することを見出した。現在、病原体および共生細菌という二つの観点から、より広く宿主と微生物の相互作用を捉えるべく研究を展開している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
大腸菌の高病原性化メカニズムについて、当初の想定を超えて分子的実体に迫ることができたとともに、コオロギにモデル動物を広げ、共生細菌という新しい観点から宿主動物と微生物の相互作用に迫るための実験系を確立することができた。これは、本年度の想定を超えた進捗であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
大腸菌の高病原性をもたらす分子機構の全貌解明と、なぜその分子機構によって動物の死が誘導されるかという点が重要な課題である。現在、免疫の過剰活性化という観点から解析を進める予定である。また、コオロギの共生細菌に関して、成長促進をもたらす分子機構および当該共生細菌の由来に関して解析することが重要であると考えている。さらに、コオロギを用いた感染モデルを用いて、細菌感染が動物の行動に及ぼす影響について検討していく予定である。
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