本研究計画の最終年度において、当初カイコを用いた細菌学実験から萌出・発展したコオロギの実験系を用いて研究を展開した。本年度において私は、聴覚情報を介して求愛行動を行うコオロギを用い、免疫応答と求愛行動の関連について検討するための実験系を確立することを試みた。まず、これまで取り組んできたカイコ感染症モデルと同様に、病原性細菌とコオロギを用いて感染モデルを作出した。黄色ブドウ球菌や緑膿菌といった種々の病原性細菌がコオロギを殺傷することや、ヒトに対する病原性に寄与する病原性因子がコオロギに対する殺傷活性にも寄与することを見出している(論文投稿中)。さらに、コオロギの求愛行動を網羅的かつ定量的に観察することを目的として、ビデオトラッキングシステムの開発(未発表)や、コオロギが発する「鳴き声」の音響解析システムの樹立(宮下ら、PLoS ONE、2016年)を進めた。その中で、鳴き声のパターン解析の結果から、コオロギのcalling songの中に極めて厳密に制御された特徴的周波数成分が存在することを見出し、当該周波数成分がコオロギの求愛行動における重要な因子として機能しているという仮説に至った。さらに、コオロギ個体のサイズを実験的に変化させる方法として、ミツバチのロイヤルゼリーに着目し、当該試料を経口投与することによってコオロギの個体サイズを増大させることができることを見い出した(宮下ら、Biology Open、2016年)。これらの研究は、宿主ー病原体相互作用から捉える動物の免疫機能を、同じく種の適応にとって重要な求愛行動と両立するために互いをいかにして両立しているのかという根本的疑問に答えるための重要な一歩である。今後、当該課題に関してさらに解析を進めていく計画である。
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