研究実績の概要 |
地球深部に遍在する水(水素)の存在状態を明らかにすることは、地球内部のダイナミクスや物質循環を理解する上で非常に重要である。本研究では、水素を観察できる中性子線を用いることにより、地球深部に相当する高圧条件下において水や水素がどのような振る舞いをするのかを観察し、地球内部物質に対するこれらの影響を明らかにする手がかりを得ることを目的として、研究を遂行した。 1. 高温高圧中性子回折実験に向けたセルの開発と応用 中性子その場観察では、高温高圧が長時間安定に発生でき、大容量の試料でシグナル強度を稼げることが望ましい。これまでに本研究で開発した新型6-6セル(従来型よりも直径が一回り大きく、スチールのジャケットで周りをサポートした超硬アンビルを導入したもの)に対して、今年度は高温高圧下での圧力抜け、およびアンビルセルからの中性子の吸収を軽減させるという両課題を克服するべく、さらなるセルの改良を行いアセンブリの最適化を図った。 2. 放射光X線を用いた含水鉱物の高温高圧下での変形挙動その場観察 2014年末まで滞在したドイツにて行った含水鉱物Lawsoniteの変形実験と回収試料の組織観察から、実験条件(温度や圧力, 歪み, 歪み速度, 時間, 粒径など)の違いによる影響を検証した結果として、特定の温度と歪み条件下で剪断変形を受けた試料のみに特徴的な結晶方位選択配向と変形組織が観察された。この結果を反映して今年度は、上記1の改良アンビルを用いて高温高圧下での変形実験の放射光X線その場観察を試みた。高温高圧下で試料を一定速度で変形させながら、新型セルのアンビルギャップのわずかな隙間からX線カメラの透過像と回折パターンの有為な変化をとらえることに成功した。これにより、改良セルの変形実験への応用が可能であることが確認できたと同時に、変形Lawsoniteの初のX線その場観察が実現された。
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