研究課題/領域番号 |
13J08700
|
研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
田中 鉄也 関西大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
|
キーワード | マールワーリー / ヒンドゥー寺院運営 / 社会史 / 贈与 / 信託法 / モーラル・エコノミー / 王権 |
研究概要 |
インド経済のみならずグローバル経済でも躍進を続ける商業集団マールワーリーは、コミュニティの「ふるさと」であるラージャスターン州各地にヒンドゥー寺院を建立してきた。1912年に同州ジュンジュヌーで運営が開始されたラーニー・サティー寺院の100年に及ぶ運営史の調査を通じて、マールワーリーの社会史を解明することが本研究課題の主たる目的である。平成25年度に実施した調査・研究の主眼は、マールワーリーによるヒンドゥー寺院運営を理解するうえでの基礎理論の構築にあった。ヒンドゥー寺院運営に関してこれまで支配的であった「王権論」的解釈に再考を促すために、平成25年度は先行研究・文献資料の整理と、それに対する批判的考察に従事してきた。従来、ヒンドゥー寺院運営の担い手は王族とされ、商業集団は副次的な存在とされてきた。しかし調査の結果、20世紀以降、王族にとってかわり彼らが寺院運営の主要な存在となることが明らかとなった。特にマールワーリーは植民地政府による寺院基金にかかわる法整備に乗じて多くが寺院運営に参入し始めた。しかし先行研究のように彼らの寺院運営を自らの世俗的な支配力を宗教的権威によって正当化すると解釈するのは適切ではない。マールワーリーは「王」ではなく「寺院運営者」として植民地政府から信任された存在である。彼らは、寺院を適切に運営する「信頼に値するビジネスマン」としての評判と、そして地域社会に多大な貢献を施す「コミュニティの大物」としての名声を追及するために寺院運営に乗り出したのである。従って「王権論」はマールワーリーによるヒンドゥー寺院運営を解釈するうえでの分析概念としては適切ではない。今後マールワーリーの寺院運営の具体例を分析することによって、とりわけ20世紀におけるヒンドゥー寺院運営の新たな解釈枠組みの構築を試みる所存である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究目標はマールワーリーによる寺院運営を分析するための基礎理論・基礎的資料の構築にあった。膨大な先行研究・文献資料の整理に多くの時間を割かざるを得なかったために、残念ながら当初予定していたほど国外調査を実施できなかった。しかし関係資料は予想以上に効率的に入手できたため、基礎理論を十分構築することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
当該年度に構築した基礎理論を踏まえた上で、今後はマールワーリーの寺院運営の具体例であるラーニー・サティー寺院への集中的な参与観察を実施する。具体的には以下の三つの課題に取り組んでいく。(1)インド独立(1947年)以降、各ヒンドゥー寺院はそれぞれ法人登記された州に管轄されるため、これら各州の寺院基金・公益信託に関する法整備を整理する。(2)1980年代からこの寺院はジュンジュヌーのみならず、インド国内外にその分祀を建立してきた。この分祀の現状と拡散の歴史的過程を把握する。(3)マールワーリー・アイデンティティの歴史的な構築過程を1920年代から60年代にかけて発刊された雑誌・新聞から分析する。
|